オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

しばらくあいてしまいました。色々書いたり、TOKYOに出張したりしていました。今日は日常業務、のつもりでしたが急遽でかけたりとバタバタしていました。いのちのたび博物館のH博士から「ふなみそ」と「ふなずし」をいただいたので、食べました。

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ふなみそです。東海地方一部地域の郷土料理で、フナと大豆を味噌などとともに煮たものです。初めて食べましたがとても美味しかったです!

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こちらは滋賀県の郷土料理として有名な「ふなずし」です。フナを米などとともに漬け込んで発酵させたものです。個人的にかなり好きな食品で、九州ではなかなか手に入らないので、うれしいです。もちろん美味しかったです!

ということでH博士、貴重な食品をありがとうございました!

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そういえば今日はちょっと川に行く機会があったので網をいれたらカマツカが採れました。今日もかっこいいカマツカです。

書評

遠藤公男「ニホンオオカミの最後 狼酒・狼狩り・狼祭りの発見」山と渓谷社.(リンク

岩手県を舞台に、当地でニホンオオカミがどのように滅んでいったかを、緻密な文献調査と聞き取り調査によって浮かび上がらせています。大変面白かったです。その過程で色々な文化も拾い上げて記録しており、学術的にも非常に重要な一冊であると思います。

もちろん絶滅には西洋からもたらされた伝染病、環境破壊による生息域の消失、シカやイノシシの乱獲による餌不足などの複合的な部分もありますが、これほどまでに徹底的に害獣として駆除された歴史があったとは不勉強ながら知りませんでした。少なくとも最後の最後は確実に、乱獲により絶滅させたことは間違いないのでしょう。

本書にあるように人間を食い殺した記録も多々残っており、当地で重要な産業であった馬や牛を食べるという害も大きいものであったようです。しかしそれにしても、懸賞金がかかっていたということがあったとしても、とにかくみつけたら殺す、鎌で切り殺す、棒で打ち殺す、と徹底的に殺しています。人間はすごいものだなと思います。ぬるい21世紀の日本に生きている自分には想像もつきません。例えばその頃に生物資源として保全すべきという声があったとして、自分が有識者として都会から当地を訪れたとして、どういう保全策があったろうか、ということなどを考えてしまいます。日本人と共存の道は本当になかったのでしょうか。

ところでこの本では「狼酒」というすごいものを発見して報告しています。これは本当にすごくて詳細は本を読んで欲しいのですが、この中に骨のかけらがあったことを記しています。その骨について遺伝子解析が実施され、なんとニホンオオカミの東北個体群の可能性が高いということが発表されたのでした。→(リンク

これもまたすごい話です。地道なフィールドワークの重要性がよくわかりますし、この著者がしつこく探さなかったらこの狼酒はそのまま誰にも知られずにこの世から消滅していたことでしょう。本当にすごいことです。

 

ところで日本列島から絶滅した貴重な哺乳類としてはもう一種、ニホンカワウソがいます。ということでついでに以前読んだ以下の本も紹介します。

宮本春樹「ニホンカワウソの記録 最後の生息地 四国西南より」創風社出版.(リンク

こちらの本も緻密な文献調査と聞き取り調査によって、ニホンカワウソの最後を浮かび上がらせています。ニホンカワウソニホンオオカミとは異なり、絶滅前に天然記念物に指定されています。にも関わらず絶滅してしまいました。こちらもその絶滅の原因は河川環境の悪化や水質の悪化を含む複合的なものと思われますが、その最後には漁業や養殖業に対する害獣として駆除された経緯も書かれています。この本でもうろうろしているカワウソは徹底的に殺されていることがわかります。おそらく密猟に近い形でひそかに殺されたカワウソも多かったのではないでしょうか。

この2冊は社会的課題としての生物多様性保全に興味がある方にはぜひ一読をお勧めしたいです。事実として、日本列島の誇る山の王者と川の王者が、どのような経緯で絶滅したかを知ることは、今後の日本各地での生物多様性保全の戦略を考える上でも重要なものであるでしょう。野生生物を愛し自然と共生する日本人、などというイメージは幻想であることもよくわかります。「害獣」に対して人類がどうふるまうのかという本質的な部分もよく理解できるものと思います。

 

日記

今日は川で調査でした。

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カジカ。最近の論文で九州の大卵型カジカは実は中卵型カジカの陸封集団ではないかということが明らかにされましたが、分類学的な解決はいつになるでしょうか。

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同じ場所で採れたドンコ(5匹)とカジカ(3匹)。系統も生態もまったく異なる両種ですが、模様はよく似ています。

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たぶんオオヨシノボリ。この水系ではやや珍しい。

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とりあえずギンブナで・・。断言できるようになる日は来るのでしょうか。

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イカワ。この時期は銀色ピカピカです。

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イトモロコ。この地点にはたくさんいました。

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カマツカ。かわいく撮れました。






 

日記

今日は福岡市科学館(リンク)に行ってみました。2017年に九州大学六本松キャンパスの跡地に新しくできた施設です。全体的に色々と工夫された展示が多くて、ポン氏も大変喜んでいました。たまたま遠隔操作型ロボットのサッカーの試合が行われていて、特にそれに熱心に見入っていました。子供もたくさん来ていて、この科学館を通して科学好きな子供がたくさん育ってくれることを期待したいです。私もだいぶ楽しみました。おすすめです。

で、こうした施設に行くと当然のことながら自分の専門分野が気になります。福岡市の自然コーナーはスペース的にはかなり広くあり、それは良かったです。ただ、生物多様性についてはもう少し努力して欲しいなという感じがします。もっと本気で子供たちに興味をもってもらう方向で取り組んでもらいたいです。特に一部に水槽を置けそうなコーナーが不自然に空いていました。そこにはぜひとも水槽を置いて欲しいです。福岡市と言えば博多湾が模式産地であるチクゼンハゼ(筑前の名を冠するハゼ!)も紹介して欲しいですし、やはりハカタスジシマドジョウも紹介して欲しいです。

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パネルにはカマツカは入っていたので、まあそれは良しとしましょう・・。生物部分の監修はどなたがしているのですかね。福岡県内には専門家も多いので、ぜひとも適切な監修者に入ってもらいたいものです。

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それから気になったのがこの展示。干潟の模型なわけですが、トビハゼのフィギュアが完全に水中で群れをなしていました。人が近づいてきて水の中に入った瞬間をとらえた設定という可能性もわずかながら残りますが、やはり不自然です。水際やヨシ原内など陸地に設置すべきでしょう。ここも残念でした。

前述したように「福岡市の自然」部分にはかなりスペースはあり、今後の展開に期待したいです。持続可能な社会の構築には生物多様性保全が必須です。人間が滅んでしまえば工学も物理学もそれらを基盤にした科学技術も何もかも意味がありません。豊かな人間社会の構築において、生物学こそが基盤です。そうした部分をぜひ「科学館」で伝えて欲しいものです。

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六本松自体にもものすごく久しぶりに来たわけですが、私が学生時代に学んだキャンパスの面影はほとんど残っていませんでした(わずかに残されていた数本のクスノキは当時のものでしょうか)。これも時の流れで、残念なことですが、人間社会というのはこういうものでもあるのでしょう。この地にあった九州大学生物研究部の部室が、今の自分の研究者としての開始地点であったと思っているのですが、それは跡形もなくこの世から消え去ってしまっていることを実感しました。

論文

赤司英治・大杉奉功・金澤裕勝(2018)河川水辺の国勢調査における調査実施上の留意点.平成29年度水源地環境技術研究所所報:32-37.PDF

国土交通省が実施している「河川水辺の国勢調査」は、今や公的機関が実施している生物相のモニタリングデータとしてはもっとも充実し、保全の現場などにも活用されている重要な事業になっています。本論文では河川水辺の国勢調査に関わる技術者を対象とし、同定に関する注意点を中心に、DNA解析用標本作成や外来珪藻(ミズワタクチビルケイソウ)の問題点などを整理して解説しています。内容的には一般の愛好家や研究者にとっても非常に有用なものになっています。ありそうでなかった実用的な論文ですので、湿地帯調査者は必読です。

余談ですがドジョウ類の同定上必要な文献として「日本のドジョウ」を挙げてもらっているのは大変うれしいです。この図鑑には絵解き検索も掲載しているので、これに沿った同定で記録されることでより細かいモニタリングデータの蓄積が進むことを期待しています。

論文の情報を教えていただいたSZ-1氏にこの場を借りてお礼申し上げます。

日記

ようやく今年初の湿地帯です!川です!年々初湿地帯が遅くなってきており老化を実感しますが、カマツカがたくさんいたので満足です。

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カマツカです!今年もたくさんいます!

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ムギツク。相変わらずの黒い線。

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イトモロコ。渋い魅力。

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ニゴイ。この川では初めて採りました。やはり筑後川水系では増えているような・・

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上からカマツカ、ツチフキ、ゼゼラです。よく似ていますが、それぞれ違った魅力をもっています。

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アリアケスジシマドジョウ。教科書どおりの模様な個体。

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ナマズ。きれいな個体でした。

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オヤニラミ。こちらもきれいな個体でした。

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カジカ。あと2カ月ほどで産卵期ですね。

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アリアケギバチの楽園がありました。すべて昨年生まれでしょう。筑後川水系では国内由来の外来種であるギギが爆発的に増えており、本流や主な支流ではアリアケギバチがほぼ絶滅してギギに置き換わってしまっています。今日みつけたこの場所も時間の問題かもしれません。打つ手がありません。どうしたら良いのでしょうか。記録後これらの個体はすべて元の場所に戻しました。なんとか生き残って、無事に大きくなってくれると良いのですが。

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最後に再びカマツカ。この胸鰭のとがり方がたまりません。

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もう一つカマツカ。ということで今年はカマツカ尽くしからのスタートとなりました。

 

謹賀新年

あけましておめでとうございます。今年も湿地帯中毒をよろしくお願いします。更新頻度はあまり期待できませんが、たまにはお役にたつ記事なども書いていけたらと思います。

今年の目標はなんといってもまずは今執筆中の図鑑の完成です。だいぶ佳境に入ってきました。なんとか早めに形にしたいです。それからドジョウ属の研究です。色々と中途半端な形になってしまっていて、各界にご迷惑をおかけしています。この二つさえしっかりできれば、人生の目標がほとんど終わってしまうのですが、そういう意味で、この二つの課題には全力で取り組みたいと思います。