オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Sakai, H., Watanabe, K., Goto, A. (2020) A revised generic taxonomy for Far East Asian minnow Rhynchocypris and dace Pseudaspius. Ichthyological Research: online first(LINK
東アジアのアブラハヤ属、ウグイ属の属名についての分類学的な論文です。これまで日本では長らくアブラハヤ属にPhoxinus、ウグイ属にTribolodonを使用してきましたが、近年の分子系統学的な研究や形態学的な研究の成果を反映して、東アジア産アブラハヤ属についてはRhynchocyprisを使用するのが妥当、またTribolodonPseudaspiusのシノニムとするのが妥当、との結論を出しています。従いまして今後はアブラハヤ属Rhynchocypris、ウグイ属Pseudaspiusとするのが妥当であるということになります。
属名が変わったことにより従来の種小名の語尾変化があるのではないかということで、論文著者でもある渡辺先生が以下の解説を行っているのであわせてお読みください→リンク
これにあわせてタカハヤとか学名こうですよーとか書こうと思って少し調べたんですけど、アブラハヤ属については少し調べたくらいではよくわからないくらい混沌としているので、後日また解説したいと思います・・・。あと個人的にはよくなじんでいたTribolodonが消えてしまうのはやむを得ないとはいえ一抹の寂しさがあります。

祝出版

中島 淳・林 成多・石田和男・北野 忠・吉富博之(2020)ネイチャーガイド日本の水生昆虫.文一総合出版リンク

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ついに出版となりました。感無量です。本図鑑が対象としているのは水生昆虫のうち、成虫も水生である「真水生種」、すなわちコウチュウ目とカメムシ目です。ようするにゲンゴロウ、ミズスマシ、ガムシ、タガメミズカマキリ、アメンボなどの仲間です。

本図鑑の作成方針にはまず3つの重要なポイントがあります。1つは網羅性。2019年11月末までに記録がある485種・亜種のうち、480種・亜種を図鑑パートで紹介し、残りの5種についても検索パートで言及しているので、完全網羅と言っても過言ではありません。もう1つは生体写真にこだわったところで、掲載種の9割を生体で紹介することができました。そのため一般的な水生昆虫のイメージを覆す美しさを堪能することができます。さらにもう1つは同定にこだわったところで、直感的に科の識別ができる絵解きプレートを各目の前に配置するとともに、巻末には種まで同定できる新しい絵解き検索を完備しました。もちろん解剖しないと難しい種類もありますが、直感的にある程度のグルーピングができる、詳しい人ならこれだけで種同定までできる、という資料になっていると思います。この同定をする上で、完全網羅と生体写真中心というのは、きっとお役にたつだろうと思います。

 さて、裏話。本図鑑作成のそもそもの経緯は、ヒメドロムシハンドブックをつくりたい!というものでした。ということで企画をもちこんだのですが、あえなく却下。しかし網羅性が高く同定に使えるハイアマチュア向けのものならいけるのでは、ということで企画が通ってしまいました。しかしそれは実は10年前・・ということで完成まで編集N氏には多大なご迷惑をおかけしました。ここまで粘り強く尽力していただいたこと、ただただ感謝です。本当にありがとうございました。

 はじめの3つの目標は私の中では当初よりあったものですが、完全網羅となると当然のことながら私一人では到底手におえる代物ではありません。そこで水生昆虫全般に詳しく生体写真も多く撮影されている林 成多さんにまずは共著者として入ってもらいました。それからやはり水生カメムシ、これは石田和男さんが各地を回ってカタビロアメンボ類を中心に多数の生体写真を撮影されていることを知っていたので、共著者に入ってもらいました。それから、ゲンゴロウ類やガムシ類について、各地での採集経験をお持ちで多く生体写真を撮影されている北野 忠さんに、共著者に入っていただきました。その上で、全体の専門的な部分のチェックや監修的な立場で、吉富博之さんに入っていただきました。それでも揃えられなかった種について、各地の凄腕の方々から生体写真や標本をお借りして、そろえることができました。特に美しい秘蔵の生体写真を多く提供いただいた渡部晃平さんには大変感謝しています。

 ということで見どころは色々とありますが、生体写真で揃えることができたコガシラミズムシ科、マルヒメドロムシ属、カタビロアメンボ科、ここはかなりすごいのではないかと思います。それからダルマガムシ属についてはさすがに生体で揃えることはできませんでしたが、全種をはじめて紹介することができました。ここも見どころです。生体写真が揃ったという点では、マルケシゲンゴロウ属、ツブゲンゴロウ属、マメゲンゴロウ属、シジミガムシ属、セスジガムシ科、アメンボ科などなど、あとコウチュウ幼虫については科までの検索もあります。あれもこれもそれもどれもすごいなと自分で思います。ここ見て欲しいという点はいくつもあります。とにかく、何はともあれ、めくるめくすばらしい水生昆虫の世界を堪能してください。

 それから・・かなり慎重に校正を行いましたがこれだけの種数を扱っているので、どうしても分布域など細かいミスも出てきています。そのあたりはきちんと出版社のほうで正誤表を出してもらい、こちらのブログでも紹介しますのでチェックしておいてください。また何か気づいた点がありましたら、ご報告いただけますと幸いです。この図鑑と正誤表をみることで現時点での情報がよりきちんと整理できる、そういう風に前向きにとらえたいと思います。図鑑は楽しむものでもありますが、一方では学術的な総説でもあります。この図鑑を契機に水生昆虫に興味を持つ人が増え、研究や保全に取り組む人が増えてくれることを期待しています。また、それに加えて、これまで水生昆虫にまったく縁のなかった方々が、この図鑑を手に取ることで水生昆虫に興味をもち、普通にいる身近な種のことを気にかけてくれるようになることも期待しています。

 

まるはなのみのみでの書評です。あわせてお読みください。「著者が全力で殴りかかってくるような、図鑑で殴られ気絶するような、そんな1冊」。。

maruhananomi.hatenablog.com

日記

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今日の水生昆虫はマルチビガムシPelthydrus japonicusです。本州(東海地方以西)、四国、対馬から知られる日本固有種ですが、きわめて稀な種です。水質の良好な河川に生息し、水中の植物の根際や岸の砂利間から採集されていますが、詳しい生態はまったくわかっていません。ちなみにチビマルガムシというものも存在しますが、属も異なり姿も生態も全く異なります。名前が似ているだけです。ついでに言えばナガアシドロムシとアシナガドロムシ、ヒメツヤドロムシとツヤヒメドロムシはそれぞれまったく別の種です。名前が似ているだけです。

さて、そんな色々な水生昆虫が掲載されている素晴らしい図鑑「ネイチャーガイド日本の水生昆虫」がいよいよ1月23日に発売となります!(リンク)。ご予約まだの方はぜひ!損はさせません!!!!

日記

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今日の水生昆虫はキイロヒラタガムシEnochrus simulansです。主に水田や浅い湿地に生息し、本州~九州ではもっとも普通の水生昆虫の一つです。角度によっては黄金色に輝き、とても美しいです。幼虫は春から秋までみられますが生活史の詳細はあまりわかっていません。泳ぎはあまり得意ではなく、多産するところで植物を踏むと、多数の個体が水面に浮上してきて、ちょこまかとかわいらしく泳ぎます。

先日紹介したアリアケキイロヒラタガムシ(リンク)と少し似ていますが、本種はより小さいことに加えて、上翅には条溝列が発達する(アリアケキイロでは条溝にならない)ことで区別は簡単です。

日記

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今日の水生昆虫はシマアメンボMetrocoris histrioです。北海道~奄美群島にかけての渓流環境で普通にみられる、日本を代表する流水性アメンボです。名前の通り美しい縞模様をもちます。成虫になっても翅がない無翅型が多いですが、写真は翅がある有翅型です。無翅型と有翅型は前胸の形や模様なども大きく異なっていて、一見すると同じ種とは思えないほどです。

普通種であることから生活史もよく調べられていて、基本的には卵で越冬するようですが、環境によっては冬季も成虫や幼虫が見られる場所があります。また長翅型は一般的に秋に多く出現することも知られています。

日記

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今日の水生昆虫はホソガムシHydrochus aequalisです。日本固有種で東北地方~近畿地方の本州に分布します。模式産地の京都府巨椋池は埋め立てにより消滅し、その後100年以上記録がなく絶滅も心配されていましたが、東北地方の一部で再発見されました。しかしかなり局地的で、絶滅の危機は続いています。生態はまったくわかっていません。私が採集したのは大きな池沼の脇の、浅い水たまりでした。

ホソガムシ科はガムシ科に近縁な一群で、国内からは4種が知られていますが、どの種もかなり稀な種です。いずれの種も独特の金属光沢をもち、大変美麗です。

日記

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今日の水生昆虫はミナミツブゲンゴロウLaccophilus pulicariusです。国内では沖縄島以南の南西諸島に分布します。体長2.8ミリ前後と小型の種で、渋い系が多い日本産ツブゲンゴロウ属の中では別格の、圧倒的にわかりやすい美しさを誇る素敵な種です。詳しい生態はまったくわかっていません。ツブゲンゴロウ属の例に漏れず、本種もピツンピツンと跳ねるので、油断すると逃げられます。