オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

今日は調査をしていました。河川改修がヒメドロムシに与える影響を調べようと思っているのですが、実際に現地に着くと河川改修が激しすぎて魂が消耗します。

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で、これは自然度が高い良さげな渓流です。湿地帯エナジーが充満します。

 

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キュウシュウカラヒメドロムシが採れました。すでに記録はあるけど、この流域で自分で採ったのは初めてです。共著で新種記載した種ですが、何度見ても良い。マニアとしてはいつまでも九州固有種であって欲しいと思うものの、たぶん四国や中国地方にはいると思います。ぜひ探してください。

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これは別の川です。シマアメンボの長翅型(左)と無翅型(右)。長翅型の方がレア。無翅型の芸術的な模様も良いけど、長翅型の変形した前胸とシンプルな模様も良い。長翅型の出現には季節性もあると言われていますが、河川の攪乱頻度とも関係があるかもしれません。

日記

これは先週の調査。

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思いがけずかなり良い渓流をみつけてしまいました。これはひょっとしてあれがいるんではないかとがんばってみると・・

 

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いた!!アカザです。この川での記録はないです。たぶん。貴重な生息地をみつけました。水のきれいな、岩のごろごろした清流に暮らす、赤いナマズの一種。渓流の改修では真っ先にその影響を受けて絶滅してしまいます。胸鰭と背鰭にはトゲがあり、油断すると刺さります。いつまでもこの川で生き残って欲しいです。

論文

日本昆虫分類学会の最新号で日本産水生昆虫として2新種&1新記録種が報告されました!

(1)イガツブゲンゴロウ Laccophilus shinobi Yanagi & Akita, 2021

新種です!模式産地は三重県伊賀市。ルイスツブゲンゴロウによく似た種のようです。

Yanagi, T., Akita, K. (2021) A new species of the genus Laccophilus (Coleoptera: Dytiscidae: Laccophilinae) from Honshu, Japan. Japanese Journal of Systematic Entomology, 27: 31–34.

 

(2)トウカイヒメツヤドロムシ Zaitzeviaria takafumii Hayashi & Yoshitomi, 2021

新種です!模式産地は愛知県日進市。サンインヒメツヤドロムシをちょっと大きくしたような種のようです。

Hayashi, M., Yoshitomi, H. (2021) A new species of Zaitzeviaria from Aichi Prefecture, Honshu, Japan (Coleoptera: Elmidae). Japanese Journal of Systematic Entomology, 271: 43–51.

 

(3)ムクゲチビコマツモムシ Anisops elstoni Brooks, 1951

新記録種です!四国(愛媛県)と南西諸島(奄美大島,沖縄島,石垣島与那国島)から記録されました。国外では中国、東南アジア、オセアニアに広く分布する種のようです。チビコマツモムシによく似ているようで、実は本物のチビコマツモムシは少ない種かもしれないということで、今後皆さんの標本箱の探索が求められます。というかこの分布パターンからすると福岡県産は・・・

Watanabe, K., Mitamura, T., Ishikawa, T. (2021) First Rrcord of the back swimmer species Anisops elstoni Brooks (Hemiptera: Notonectidae) in Japan, with a key to the Japanese species. Japanese Journal of Systematic Entomology, 27: 138–140.

 

ということでまだまだ未発見の種は多いですね。さらなる調査の進展が楽しみです!採りに行きたいです!!でもこのご時世なかなか厳しいので自らの標本箱内の調査をがんばりたいと思います。

日記

ビワマスです!琵琶湖の生物多様性の恵みであるところのビワマスを入手しました。すごい、ピカピカ!諸事情あって手配いただいたKさん、ありがとうございました!

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ということで刺身とムニエルと塩焼きにしました。美味すぎてやばいです。いや、これは、すごいおいしい。語彙が足りない。今週は飲酒しないことにしていましたがやめました。生物多様性保全はやはり人類にとって必要です。

ところで淡水魚の「刺身」というと、食べられるの?と思う方も多いかもしれません。特にふつうサケマス類は刺身では食べられません。ところが琵琶湖固有の珍魚ビワマスは、例外的に刺身で食べることができ、地域でも長くそのように利用されてきました。おそらくその生態や生息環境に理由があるものと思います。

ということは例えばの話、よその地域から持ち込んだ魚や何やらを適当に放流した結果、一緒に変な外来寄生虫が琵琶湖に侵入してビワマスに寄生するようになったら、刺身が食べられなくなるかもしれないわけです。そんな可能性を考えると、外来種問題なんか起こさない方が良いということがわかりますね。予防が大事。

とまあぐだぐだと考えるのはもったいないくらい、素晴らしい魚です。この脂はなんでこんなに極上なのでしょうか。これで今日はもう良い一日となりました。

 

日記

今日は観察会でした。良く晴れて美しい河川。

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アブラボテTanakia limbata 。青紫!

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同所でムギツクPungtungia herzi。代掻きの濁りが入っていたので、ご自慢の縦線がやや薄い。

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同所で・・うーむ・・・オオキンブナで・・・・いや、うーむ・・・・・
とにかく美しい!

ところでこの観察会は、ポスドク時代からお世話になっている環境保全団体の主催するもので、実はその会長さんが先月に亡くなられたので、今日はご仏前にご挨拶にいきました。子供の頃に遊んだ、魚がたくさんいた川を取り戻したいとがんばっておられました。生前、貴重な話もたくさん伺いました。少しでもそんな川を取り戻せるように、私もがんばっていきたいです。

渓流の治水対策と生物多様性

先日の日記でこんな渓流の「ひどい」三面コンクリート護岸を紹介しました。ではどうしたら良いのかということを考えてみたいと思います。

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そもそものこの地点。底面を完全にコンクリート張りにしており、護岸も一見石風ですがつるつるのコンクリート製なので、生物はほとんど生息することができません。これは最悪です。

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この地点も同様。一見、石が埋め込まれているので少しはましなようにも見えますが、深く埋めているので石と石の間はそのままコンクリートでつるつるです。したがって同様に生物の生息場がほとんどありません。これもひどいです。ただ護岸はあまりいじっていないので、水際は少し再生する可能性があります。また水際から森林への移行帯(エコトーン)は残っているので、もう一工夫で良い渓流ができたのではないかという場所です。

 

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一方でかなり自然度の高い良い渓流。上の2つの渓流はおそらく、改修前はこの地点のような感じであったものと推察されます。この地点では片側は護岸されていますが石垣で、片側はまったく自然の景観です。渓流から森林への移行帯が本来どういうのものかがよくわかります。こういう渓流には当然のことながら多くの生物が生息しています。これは生物視点でみれば最高に良い渓流の一つです。

 

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この地点では奥に見える落差工、そして手前にも落差工がありその前後はコンクリートで固めており、さらに両岸も完全にコンクリート護岸です。しかし、落差工の間は自然の川床を残してあり、ここを残したことで多くの生物が生息可能となっています。ただし渓流から森林への移行帯はありません。

 

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この地点では川底は完全にコンクリートで固めてありますが、人頭大の石を埋めてあります。生物にとってはあまり良いとは言えませんが、2枚目の写真と異なり石が大きいこと、そして石が底のコンクリート面から大きく(10~15センチほど)出ているので、石と石の間に砂利がたまり、そこに小規模な瀬ができており、岸際にはわずかに植生が再生しています。これだけで生物はかなり多く生息できるようになります。しかしここも渓流から森林への移行帯はありません。

 

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この地点はまだ工事中でしたが、工事後は1枚目の写真と同程度の流量になると思われます。ここでは落差工の前後はコンクリートでがっちりと固めていますが、その間の区間はおそらく底張りがしておらず、巨岩が詰め込まれています。これはしばらくたつとほぼ自然の川床が再生するのではないかと思います。護岸もポーラス護岸という隙間のある素材でできており、1枚目の写真の地点の護岸よりは生物にとって良いものであると思われます。ただしここも渓流から森林への移行帯はありません。したがってもちろん生物にとって「良い」とは口が裂けても言えませんが、治水対策と生物多様性保全の落としどころをがんばって探っている事例であるとは言えます。

 

ということでこれらの事例をみると、1枚目、2枚目の改修方法のずば抜けた「ひどさ」がよくわかると思います。これらの改修がなんのために行われているのかというと、治水対策です。しかしながら、河川法においては河川管理の目的として、「治水・利水・自然環境の保全」の3つが挙げられています。つまり税金を使った公共事業である以上、治水だけを優先した河川整備をしてはいけないのです。

elaws.e-gov.go.jp

また、国土交通省では「美しい山河を守る災害復旧基本方針( リンク)」という通達を出しています。ここではここでは「多自然川づくりの考え方に基づき災害復旧を行う」「河川における生物の生息・生育・繁殖環境、景観、水辺利用の保全が概ね図られる」とあり、さらに「この基本方針に基づき、すべての河川における災害復旧事業及び改良復旧事業に適用願います。」とあります。

 

我々の社会にとって治水対策は絶対に必要です。でも、同じ治水をするのでも工法や設計で自然環境のダメージをもっと抑えることができるのに、法律でも指針でもそういう方向になっているのに、河川行政にそれができていないのが問題だということです。人命と自然環境を天秤にかけてはいけないよ、というのが最近わかってきたことだと思います。自然環境の上にも人命は乗っています。つまりこれらは両端ではなく、人命のためにも自然環境を守らなければいけないということです。自然環境とそこから得られる生物多様性は我々の社会にとって重要な資源です。今の豊かさや安全性を維持したまま、自然環境を再生するにはどうしたら良いか、ということを我々はもっと深く深く考えていく必要があると思います。

 

ところで余談ですが、上記の事例はすべて筑後川水系です。筑後川水系の三面コンクリート護岸というと日本住血吸虫とミヤイリガイ対策を想起する人が少なくないことが最近わかったのですが、これらの生物は渓流には生息しません。またこれらの生物がかつてみられたのは筑後川水系でも平野部のごく一部で、かつそのためのコンクリート護岸化事業はすでに終了して久しいです。したがって上記の三面コンクリート護岸化は日本住血吸虫症対策とはまったく無関係の、治水のための事業だということを付記しておきます。

論文

Kobayashi, T., Hayashi, M., Kamite, Y., Sota, T. (2021) Molecular phylogeny of Elmidae (Coleoptera: Byrrhoidea) with a focus on Japanese species: implications for intrafamilial classification. Systematic Entomology DOI: 10.1111/syen.12499 (LINK)

日本産ヒメドロムシ科の系統に関する決定版論文が出ました。大作で感動します。形態についても詳細に検討を行い、属についても分類学的な検討を行っています。日本産に関するところでは、ノムラヒメドロムシの属名変更(Nomuraelmis→Stenelmis)、ハガマルヒメドロムシ、ツルギマルヒメドロムシ、ダイセンマルヒメドロムシ、スネグロマルヒメドロムシ、タテスジマルヒメドロムシ、スネアカヒメドロムシ、ツヤケシマルヒメドロムシ、コマルヒメドロムシ、ツヤヒメドロムシ、ヨツモンヒメドロムシの属名変更(Optioservus→Heterlimnius)です。そうです、ノムラエルミスとオプティオセルブスが消滅してしまいした。しかしその根拠はこの論文を見ると明白です。

遺伝的には4系統を認めており、Group1がツヤドロムシ族(ツヤドロムシ属、ウエノツヤドロムシ属、ツブスジドロムシ属、ヒメツヤドロムシ属、カラヒメドロムシ属、ナガアシドロムシ属)とハバビロドロムシ属、Group2がマルヒメドロムシ系(キタマルヒメドロムシ属Heterlimnius+旧Optioservus、ケスジドロムシ属)、Group3がアシナガミゾドロムシ系(アシナガミゾドロムシ属、旧ノムラヒメドロムシ属、ミゾドロムシ属、ヨコミゾドロムシ属、アヤスジミゾドロムシ属)、Group4がその他(クロサワドロムシ属、セマルヒメドロムシ属)となっています。この中で興味深いのはツヤドロムシ属とウエノツヤドロムシ属とツブスジドロムシ属が完全に入れ子状になっているところ、アシナガミゾドロムシ属とミゾドロムシ属が単系統になっていないところでしょうか。

個人的に興味深かったのがGroup4の皆さんです。なんでここだけ形態がやけに多様化してしまったのでしょうか。ここにはヒメドロムシ科の模式属であるElmis属も入っていますが(日本には分布しません)、基部にきていることから古い系統なわけで、メジャーなハビタットを新型のGroup1~3に奪われて、特殊化したのだけが残ったみたいな感じなんでしょうか。色々と妄想が膨らみます。そしてこの中にヒョウタンヒメドロムシやカエンツヤドロムシをいれるとどうなるのか?今後の展開も気になります。

ツヤドロムシ族やアシナガミゾドロムシ‐ミゾドロムシについては、国外産のタイプ種との比較が必要ということで、今回の論文では分類学的な変更は行っていませんが、このあたりも今後動きがあると思われるので引き続き注視したいところですね!

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さようならノムラエルミス!!以後はノムラヒメドロムシStenelmis amamiensis (M.Satô, 1964)です。