湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

ナーフー(その1)

まとまった研究時間もとれませんので、戯れにこれまで集めてポツポツ読んでいたフナの分類に関係がありそうな論文の紹介を不定期連載的に行っていきたいと思います。フナは日本人にとっては超絶馴染み深い淡水魚ですが、フナという魚の実態は、と問われると言葉に詰まる魚類学者も多いのではないかと思います。少なくとも私は詰まります。フナというと私が研究をはじめた頃に誰かに言われた言葉・・淡水魚類界の三ドツボ、ヨシノボリ・シマドジョウ・フナの分類に手を出すと人生が狂う・・を思い出します。ところが時代は変わり、ヨシノボリもシマドジョウもすでにトンネルの向こう側は見えている状況です。にも関わらず相変わらずフナには暗黒な雰囲気が漂っています。しかし、きっと気のせいです。科学は進展しているのです!ということで日本産フナ分類の現在を読み解いて行きたいと思います。力尽きても問い詰めないで下さい。それから私の個人的なお勉強に過ぎないので、私がフナの分類をしたいとか恐ろしいことを考えているわけでは決してありません。読み込み不足等あればご指摘下さい。まずは新しいものから。
Kalous, L., Bohlen, J., Rylková, K., Petrtýl, M. (2012) Hidden diversity within the Prussian carp and designation of a neotype for Carassius gibelio (Teleostei: Cyprinidae). Ichthyological Explorations of Freshwaters, 23: 11-18.
昨年に業界を震撼させたこの論文から紹介します。内容としては形態と遺伝子(ミトコンドリアDNAのシトクロムb領域)の観点からフナ属を精査し、Carassius gibelioのネオタイプを指定、それと何かgibelioに似た隠蔽種がいるっぽい、という内容の論文です。
結果としてまず、形態で5群、遺伝子で6群に区別でき、これらの結果から今回調べたフナ属をC. auratus(中国、韓国、アルバニアギリシャチェコカザフスタン)、C. gibelio I(ポーランド、ロシア、エストニアルーマニアブルガリアチェコ、モンゴル)、C. gibelio II(モンゴル)、C. langsdorfii(日本)、C. cuvieri(日本)、C. carassius(ドイツ、イギリス、チェコ)の6種として整理しています(カッコ内は遺伝子解析に使用した標本の産地)。そして、このうちC. gibelio IとしたものをホンモノのC. gibelioということにして、チェコ産の標本に基づいてC. gibelioの再記載を行っています。これはそもそものC. gibelioの記載に使われた模式標本が存在せず実体にあやふやな点が残るため、ここらできっちりさせとこうという前向きな分類学的処置であると思います。そして、gibelio IIについては未記載種ぽいが今後の検討課題という形になっております。
さて、この論文で扱っているフナのうち、日本産種はC. langsdorfiiC. cuvieriです。後者はゲンゴロウブナとして、前者は何でしょうか。実はこの遺伝子データは先行研究から引用しているだけなので、この論文だけではよくわかりません。ただ少なくとも著者らはC. auratusとは区別できる独立種として扱っています。
さてさて、手法もきっちりとしているように見えますし、著者らは分類学にも詳しそうなので、なるほど、今後はこれをベースに云々できるのか・・と思いきや調べていくと問題があることもわかってきました。ということで次の論文を読んでみたいと思います(その2へ)。