湿地帯中毒

湿地帯中毒患者(末期)の日記です。

論文

ちょっと前のですが韓国のオイカワ・カワムツ類に関する論文2本の紹介。一つ目は・・
Oh, M.K., Park, J.Y. (2009) A molecular systematics of Korean Zacco species inferred from mitochondrial cytochrome b gene sequence. Korean Journal of Ichthyology, 21: 291-298.
韓国のオイカワ属の分子系統。いわゆるZacco属に含まれる(ていた)オイカワ&カワムツ類のざっくりとした分子系統をミトコンドリアDNAのcytb領域で調べています。日本のも全部入っています。肝心の今回調べた韓国産種の塩基配列を登録していない、というのがアレなんですがけっこう示唆に富む内容で面白いです。個人的に見どころとしてはオイカワとされるものは中国のと日本・韓国のものは全く別物であること、ヌマムツはカワムツ類から明確に区別できること、韓国のZ. koreanusとされているものには複数系統あること、などでしょうか。また、韓国のカワムツのうち一部は日本のカワムツとも同じサブクレードを構成しており、これまでの知見の通り韓国には日本のカワムツと同種もしくはごく近縁な集団も分布しているようです。これらのことから韓国のカワムツ種群に4集団いるっぽいということが見えてくるわけですが、この研究結果を受けて、現在では韓国のZ. koreanusはHK型、NS型、NE型の3型として認識されているようです(アキミツさんのブログ日韓ちゃんぽんの記事参照)。
続いて二つ目は・・
Yoon, H.N., Chae, B.S., Bae, Y.S. (2012) Geographic variation of body color and morphological characteristics of pale chub, Zacco platypus (Cyprinidae, Pisces). Korean Journal of Ichthyology, 24: 167-176.
韓国のオイカワの色彩と形態の論文。業界を騒然とさせた黒目オイカワ(オイカワB型)の初報告論文です。論文中の写真を見ると一風変わった美しいオイカワであることがわかります。超見てみたいです。このB型オイカワが洛東江を含む朝鮮半島東部の一帯に分布しているらしいということが報告されています。
で、そうすると上のOh & Park (2009)での遺伝子での結果はどうなの、というところが気になるわけですが、韓国・日本オイカワサブクレードをよく見ると、洛東江のオイカワが一番外側に、そしてそのあとに日本オイカワ+韓国オイカワという関係になっています。すなわち、日本や韓国のその他の地域のオイカワよりも、この洛東江のオイカワは遺伝的に特異ということのようです。色彩・形態で区別可能で遺伝的にも特異なのでこのB型は分類学的には別タクソンとして整理すべきものでしょう。
ということでこれらの研究結果から、驚くべきことに韓国にはカワムツ類で4種、オイカワ類で2種が分布する可能性もあるということが見えてきました。どうしてこのような種分化が起こったのか、おおいに気になるところです。また、分類学的研究の進展も楽しみです。
日本産のカワムツやオイカワについても色々と遺伝的な背景が明らかになりつつあり、今後論文等で発表されていくものと思われます。超普通種と思われていたこの「ハヤ類」にもまだまだ湿地帯生物愛好家を興奮させる隠された秘密がありそうです。

イカワのオスとメス。博多湾流入河川産。

有明海流入河川産オイカワ。

中国、東チャオシー川産。こうして見ると、この方、日本のオイカワとはやはりよく似た別人のようです。