オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Suzuki, T., Kimura, S., Shibukawa, K. (2019) Two new lentic, dwarf species of Rhinogobius Gill, 1859 (Gobiidae) from Japan. Bulletin of the Kanagawa Prefectural Museum, Natural Science, 48: 21-36.(PDF

日本産淡水魚の新種記載論文です。学名未決定のまま長らくその存在が知られていたシマヒレヨシノボリとトウカイヨシノボリがついに新種記載されました!ということで

シマヒレヨシノボリRhinogobius tyoni Suzuki, Kimura & Shibukawa, 2019

トウカイヨシノボリRhinogobius telma Suzuki, Kimura & Shibukawa, 2019

となりました。大変おめでたいです。模式産地はシマヒレヨシノボリが兵庫県円山川、トウカイヨシノボリが岐阜県土岐川となっています。いずれも日本固有種で、平地性・止水性・純淡水性で小形と、色々な点で特異で興味深いヨシノボリです。

シマヒレヨシノボリの分布域は本州・四国の瀬戸内海に面した地域で、日本海流入河川としては兵庫県円山川水系と福岡県遠賀川水系にも分布しています。本州・四国・九州の瀬戸内海側の淡水魚類相の共通性についてはよく知られていますが、ギギやチュウガタスジシマドジョウと同様に、シマヒレヨシノボリもこれら地域の河川がかつては一つの水系であった時代に種分化した淡水魚の一つであると考えられます。

一方のトウカイヨシノボリは東海地方に分布します。東海地方の淡水魚類相の特異性の高さは最近になって特に明らかにされてきましたが、ネコギギやトウカイコガタスジシマドジョウなどと同様に、この地域の淡水魚類相を特徴づける重要な種です。

残念ながらこの論文でも指摘されている通り、シマヒレヨシノボリは東海地方の一部で外来種として定着しているようです。これ以上の人為的な攪乱が起きないよう、不用意な放流行為には注意が必要です。

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シマヒレヨシノボリRhinogobius tyoni Suzuki, Kimura & Shibukawa, 2019 こちらは福岡県産です。九州の瀬戸内海側ではまだみつかっていないので、なんとかみつけたいです。

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トウカイヨシノボリRhinogobius telma Suzuki, Kimura & Shibukawa, 2019 こちらは愛知県産です。一回しか採ったことがありません。立派なオスを見てみたいです。

 分類がきわめて困難とされていた日本産ヨシノボリ属ですが、タイプ標本の丁寧な検討を地道に進めてきた結果、少しずつ確実に分類体系が構築されています。もちろんその背景には遺伝学的な研究の進展も大きいものと思います。まさに科学の進歩と歩調を合わせた分類学的研究の進展と言えるでしょう。