オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

花粉症は最低ですが、すでに3月も5日となり確実に春です。春となると毎年思いをはせる淡水魚がいます。そう、九州のニホンイトヨです。イトヨは言わずと知れたトゲウオの仲間で、遺伝子と形態から区別されていたいくつかの型のうち、イトヨ日本海型がニホンイトヨとして2014年に新種記載されました(解説記事リンク)。九州で標本の残るイトヨはすべてニホンイトヨに同定されます。また分布域からも九州で記録のあるイトヨはすべてニホンイトヨと考えられます。そんなニホンイトヨですが、かつて確実に再生産していた九州産淡水魚の中では、もっとも幻の魚の一つになってしまっています。そして、かつてニホンイトヨはまさに今頃、海から川に遡上してきていたことが知られています。そういうわけで、毎年この季節になると、ニホンイトヨが九州の川に大群をなして遡上してくる夢のビジョンにとらわれているというわけです。

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こちらが九州大学に保管されているニホンイトヨの標本写真です。1986年3月に佐賀県唐津市松浦川に遡上してきた成魚です。たくさんいますね!

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こちらも九州大学に所蔵されている九州産ニホンイトヨの標本写真です。1984年5月11日採集の福岡県津屋崎産。これは稚魚で、当時九州でもきちんと再生産がなされていたことを示す貴重な標本です(余談ですが採集者はサケマス類生態研究の権威として知られた故・木村晴朗先生&私の師匠でもあるシロウオやエツの生活史研究で名高い松井誠一先生&現在琉球大学教授として活躍されている立原一憲先生の超豪華トリオです。九大水産淡水系の大先輩方です。余談でした。)

九州産ニホンイトヨのカラー写真はほとんど残っていないのですが、「佐賀の自然デジタル大百科事典 佐賀県の淡水魚」に、超貴重な九州産(佐賀県産)ニホンイトヨのカラー生体写真があります→(リンク)。成魚の写真は1994年3月撮影、仔魚の写真は1993年5月撮影のキャプションがあります。唐津市の半田川は松浦川のすぐ横にある小さな川です。

九州産ニホンイトヨには昔から高い関心があり、これらの標本は実は所属していた研究室の標本庫に眠っていたものですが、興奮のあまり記録をとりまとめて論文にしたことがあります→中島 淳・鬼倉徳雄(2009)九州におけるイトヨの記録.ホシザキグリーン財団研究報告,12:285-288.(PDF)。

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その中島・鬼倉(2009)より表1。

いかがでしょうか。すなわち、かつて九州では3月頃に海から川にニホンイトヨが遡上してきて下流域の湿地帯で繁殖し、稚魚は5月頃までそうした環境で成長した後、海に出て行ったという生活史をもっていたことが示唆されます。しかし残念ながら1995年頃を最後に一切の確かな情報がありません。各県レッドでもほぼ絶滅の扱いです。非常に残念です。

ただし、この時期の九州日本海側は、アユ遡上期、シラスウナギ遡上期、シロウオ遡上期、サケ降海期と色々と重なっていることもあり、特に漁協のある川の河口で無許可で投網を打ちまくったり集魚灯をしたりすることは不可能です。すなわち集中的な調査がなされていないという実情はあります。また、近傍では山口県長門市近郊では最近もちらほら採れているほか、島根県宍道湖では細々と再生産が確認されているようです。したがって、九州の日本海側の小河川でもこっそりと遡上してきていたり再生産していたりしないかと、わずかに期待しているところです。

ということで、もし九州で生きたニホンイトヨを発見・捕獲してしまったら、ぜひともご一報ください!