湿地帯中毒

湿地帯中毒患者(末期)の日記です。

書評

クワガタムシハンドブック 増補改訂版」横川忠司(著)、文一総合出版リンク

2008年に出版された日本のクワガタムシハンドブック(当時の書評はこちら)が、10年の時を経て大幅にパワーアップして帰ってきました!

f:id:OIKAWAMARU:20190618221344j:plain

右が旧版、左が今回出た増補改訂版です!

当時も書きましたが、図鑑、特にこのような入門系のものは恐ろしいほどの実力者がその膨大な知識と経験を削りに削って1/10くらいに濃縮し一般向けに調整したものほど読み応えがあり内容も素晴らしいというのが私の持論なわけですが、今回は濃縮されてもはや粘土のようになった状態まで行っているかのような趣すらある圧倒的な作り込み、濃さを感じます。というか実は入門用ではないかもしれません。しかし題材がクワガタだからか、著者の繊細な匙加減の妙なのか、読みにくいことはありません。良い塩梅で、図鑑愛好家としてはかなり凄みを感じる感動的な逸品に仕上がっています。

f:id:OIKAWAMARU:20190618221404j:plain

前回と比較すると、まずページ数が80ページから128ページに増加しています。そして前回は本土のクワガタメインであったのが、今回は南西諸島産もしっかりと解説しています。ただしページ数に限りがあるので亜種や近縁種をそれぞれ独立して解説することは避け、うまく種や種群としてまとめています。このおかげで逆に全貌がつかみやすくなっています。そして標本写真もおそらく全面的に撮りなおしているのだと思いますが、小型の種類は隅々までピントのあったとても美しいものになっています。そもそも標本が美しいです。今回も引き続き「区別」にはかなり力をいれており、オスのみならず、メスについてもこれを使えばかなり確実に同定ができそうです。それから新たに追加されたクワガタが集まる樹木図鑑や、同定するためのスマホでの撮影法など、非常に充実した内容です。もちろん引き続き、クワガタの外来生物問題も解説しています。総じて、実に奥深い日本列島のクワガタムシの世界がわかりやすく提示されています。

今回改めてクワガタムシの図鑑を読んで、クワガタムシというのが日本列島の生物相を構成する要素としてはかなり面白い存在であることを再認識しました。本土から南西諸島のヒラタクワガタの変異、本土のルリクワガタ属や南西諸島のマルバネクワガタ属の種分化は日本列島の生物相の成立様式を考える上で外せない項目です。また、色々と知識をもって改めて見てみると、特にミクラミヤマクワガタ、アマミミヤマクワガタ、アマミシカクワガタ、ヤマトサビクワガタの分布パターンというのはどうかしていますね。何なんでしょうか。色々と妄想が膨らみます。

ということで、1800円という値段は、正直安いと私は思います。これは一家に一冊レベルと言えましょう。おすすめです。

余談ですが、前にも書きましたように著者のY川大先生はQ大生物研究部昆虫班の2コ上の先輩でして、それはもう過酷な楽しいクワガタ採集に、何度か連行され同行させていただきました。当時から自宅アパートの部屋の真ん中には巨大な切り株が鎮座しているなど圧倒的熱量をもったクワガタ採集人でしたが、その当時から積み上げてきた知識と経験がこの図鑑には存分に詰まっています。