オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

宮田真也(2019)日本の第四紀淡水魚類化石研究の現状.化石,105:9-20.(LINK

第四紀(約260万年前から現在)という、「わりと最近の」淡水魚類化石研究の現状をまとめた総説です。淡水魚類の生物地理学が好きな人、かつての湿地帯の状況を妄想するのが好きな人にはたまらない内容です。リンク先からPDFをダウンロードできます。図も多く、表もわかりやすく、おすすめです。

化石ではクルタ―とかクセノキプリスとか、ほいほい出てくるわけですが、この総説を読んでわかる通り、実は縄文時代までいたわけですね。これらは広大な湿地帯を生息地にする淡水魚で、すなわち稲作によっていかに湿地帯が破壊されてきたか、ということも想像できます。ちなみにこの仲間で日本列島に生き残っているのはワタカ一種のみです。

ドジョウとかゲンゴロウとか、水田の生き物は人工環境の生物だから保全する意味があるのか、と言われることがあるのですが、実はこれらの生き物はこうした大湿地帯に生きていた末裔で、なんとか水田地帯で命をつないできたということですから、当然保全する意味はあります。かつての日本列島の自然環境がどうだったのか、ということを考える上でこうした化石の研究は重要であるわけですが、こうした研究の知識があると、現在の生物多様性保全する意義や義務も、現代の人類として考えたくなってしまうと思います。

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ちなみにクセノキプリスはこんな魚です。たぶんXenocypris argenteaポスドク時代に浙江省での調査に参加した時に出会った個体。えもいわれぬ大陸の雰囲気を感じます。