オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Kondo, T., Hattori, A. (2019) A new species of the genus Lanceolaria (Bivalvia: Unionidae) from Japan. VENUS, 78: 27-31.

九州から新種キュウシュウササノハガイLanceolaria kihirai Kondo & Hattori, 2019が記載されました。いわゆる「九州のトンガリササノハガイ」です。模式産地は福岡県柳川市矢部川水系)、副模式産地として佐賀県唐津市松浦川)が挙げられています。あと従来のトンガリササノハガイL. grayii(模式産地は中国)は実は国内に分布しないという分子系統解析結果を反映し、国内産種(本州産・四国産)の学名はL. oxyrhynchaの適用が妥当ということで、これにあわせて和名もササノハガイに変更になっているようです。つまり本州・四国にササノハガイL. oxyrhynchaが、九州にキュウシュウササノハガイL. kihiraiが分布するというのが現在の知見です。

本論文によればキュウシュウササノハガイは遺伝的には本州や四国のササノハガイよりも、中国に分布するL. triformis(画像がありました)に近いという情報もあるようで、系統関係の推測はこの分類群難しそうですが、少なくとも九州の湿地帯生物相の大陸要素を反映した生物地理学的に重要な種であることは間違いなさそうです。分布は九州北部(福岡県、佐賀県大分県熊本県長崎県)となっていますが、ご存じのとおり九州の瀬戸内側は水生生物相がまったく異なり、本州・四国の要素を多分に含みます。したがって九州の「ササノハガイ」がすべてキュウシュウササノハガイかという点については、これはきちんと調べる必要があるでしょう。瀬戸内側には本物のササノハガイが分布する可能性もあると考えられます。この論文ではそのあたりは特に触れられていませんでした。

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タイプロカリティと同産地のキュウシュウササノハガイです。新たに判明した九州の宝物、絶滅しないように大事にしたいものです。個人的な見解ですが、やはりこの種も生息地がだんだんと減ってきているのは間違いありません。なんとかならないものでしょうか。