オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

水田・水路でつなぐ生物多様性ポイントブック

ここ数年WWFジャパンさんが進めてきた九州北西部の水田・水路地帯での生物多様性保全に向けた取り組みですが(WWFのキャンペーン記事)、このたびその成果の一つとして「水田・水路でつなぐ生物多様性ポイントブック」が完成したそうなので紹介します。

www.wwf.or.jp

こちらは基本的に行政向け、すなわち自然環境や公共工事部局に向けて作成したもので、福岡県、佐賀県熊本県の各県庁組織を中心に関連部局に送付されているとのことです。そのため冊子体については一般向け部数が少ないのですが、非常に良いものであることから色々と調整をしていただき、このたびPDF版を一般の方でも入手できるようにしてもらいました。上のサイトに行ってもらって、メールにてダウンロード用のパスワードを申請してもらう形になります。

内容をチラ見せいたします。

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水路の改修事業を担当する上で、生物多様性に配慮した進め方をするにはどうしたらよいか、考えるべきポイントをフローチャートで確認できます。

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具体的な改修事例を紹介しています。この事例の「何が良いのか」という点を詳しく書いているので、これそのものができなくても、その「仕組み」を理解すれば応用して少しでも生物に影響が少ない工法を考えることができます。

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近年では生物に配慮した事業を実施した後に、行政が協力して「環境教育」を行うことがあるのですが、そうした時に注意すべき点、特に行政がかかわってはいけないことを簡潔に理由とともに解説しています。

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特に九州北西部の水路地帯でトップレベルに配慮が必要な4種(セボシタビラ、カゼトゲタナゴカワバタモロコ、アリアケスジシマドジョウ)については、1ページずつ、その生態と保全のポイントを解説しています!

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さらに九州北西部の淡水魚同定マニュアルもついています。このあたりの水路や河川でみられる魚類はまだ他にも色々いるんですが、とりあえず最低限覚えておいて欲しい種を区別できるよう解説しています。

食糧生産の場である「水田・水路」は、同時に、多様な湿地帯生物の生息環境であり、それらの生物は食物や癒しとして人類の役に立ってきました。食糧生産の場である水田・水路の利便性を上げ近代化することが人類にとって重要なのは間違いありませんが、その一方でその近代化により急速に水田・水路地帯の生物が絶滅しています。水田・水路の改修をするなというわけではなく、水田・水路で多様な生物と共存することは人類にとっても意義が大きいという事実を共有し、どうしたら共存できるのかということについて、その具体的な方法を考えていく必要があります。この資料はそうした思考をめぐらす上で大きく参考になると思います。この一冊ですべてが変わるとは思いませんが、こうしたことを積み重ねて、人間と生物が共存するような農業地帯の形成が、九州はじめ各地で進展していって欲しいです。