オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文:日本初記録のゲンゴロウ科

三宅 武(2020)日本初記録のゲンゴロウPlatambus ussuriensis (Nilsson).さやばねニューシリーズ,37:44-45.

日本初記録のゲンゴロウ科が対馬から発見、報告されました!その名もウスリーマメゲンゴロウPlatambus ussuriensis (Nillson, 1997)です。その名のとおり、ロシア極東部で発見された種で、中国北部、朝鮮半島にも分布します。すなわち、対馬の生物相の大陸要素を反映した生物地理学的に重要な種といえます。対馬内の分布が局地的なのか、それとも広く分布しているのか、今後の調査が必要です。

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ということで気になるその御姿がこちら!対馬のyohboさんに特別に提供いただきました!どうもありがとうございます。パッと見て上翅後半の円形の黄色斑紋が目立ちますね。対馬には何度か行っていますが、まだ出会ったことがありません。出会いたいです。クロマメ系いないのかなーとちらりと思ったことはあったのですが、やはりいたということでもっと本気で探せばよかったと悔やまれます。

拙著「ネイチャーガイド日本の水生昆虫」には当然のことながら掲載されていません。本種が属するモンキマメゲンゴロウ属はこれまで国内から8種、モンキマメゲンゴロウ、ニセモンキマメゲンゴロウ、キベリマメゲンゴロウ、サワダマメゲンゴロウ、クロマメゲンゴロウ、ホソクロマメゲンゴロウ、コクロマメゲンゴロウ、チョウカイクロマメゲンゴロウ、が記録されています。このうちモンキ、ニセモンキ、キベリは上翅に明瞭な斑紋があることから、またサワダは斑紋がなく独特の深い印刻があることから、区別は容易でしょう。似ているのはクロマメ、ホソクロマメ、コクロマメ、チョウカイクロマメです。大まかにいってウスリーマメはコクロマメよりは大きく、その他クロマメよりはやや小さいようです。また黄色斑紋の形や大きさも参考になるかもしれません。とはいえやはり、これらとの区別は雄交尾器を見るのが確実です。

ところで対馬には朝鮮半島との共通種が多く自然分布することが知られており、ツシマヤマネコ、シベリアイタチ、キタタキ(絶滅)、アムールカナヘビ、アカマダラ、チョウセンヤマアカガエル、チョウセンケナガニイニイ、キンオニクワガタ、チョウセンヒラタクワガタヒメダイコクコガネなどなどが有名です。最近話題になったユーラシアカワウソも同様のものでしょう。もっと他にもいます。そしてこれらはいずれも壱岐島や九州本島には自然分布しません。

一方で水生昆虫では同様の分布様式をもつ種はこれまであまり知られていなかったのですが、近年になってタイリクシジミガムシやツシマツヤドロムシが同様に九州には分布せず、対馬朝鮮半島にかけて分布することがわかりました。また、北海道~中国大陸~朝鮮半島対馬に分布するチビコガシラミズムシや、本州東部と中国大陸~朝鮮半島対馬に分布するセスジガムシのようなパターンもあります。ということでウスリーマメゲンゴロウ対馬の水生昆虫相の成立様式を考える上でも重要な種であることがわかります。対馬の生物相は朝鮮半島要素ばかりかというとそうでもないことが興味深く、九州との共通種も多くいます。すなわち日本列島の要素と朝鮮半島の要素が混然一体となった、独自の非常に興味深い生物相をもつ地域であるということです。対馬の自然環境は近年も比較的安定しているようですが、今後もより良い状態で維持されるよう、努力していく必要があるでしょう。

日本産真正水生昆虫リストでもさっそく反映しておきました。図鑑出版後の変更、間違いの修正は適宜こちらで行っています→ リンク