オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Ryndevich, S.K., Angus, R.B.  (2020) Redescription of Hydrobius pauper (Coleoptera: Hydrophilidae), with a key to the Eurasian species of the genus Hydrobius. Zoosystematica Rossica, 29: 77–86. (LINK)

スジヒメガムシHydrobius pauperの再記載とユーラシアのスジヒメガムシ属の検索という論文です。昨日にガムシ分類学者のM博士に教えてもらいました。いつもありがとうございます!論文はオープンアクセスです。

スジヒメガムシ属は9種が知られる止水性のガムシ科で、日本ではスジヒメガムシHydrobius pauper Sharp, 1884 ただ一種が北海道と本州(関東地方以北)に分布する、ということに長らくなっています。しかし全北区に広く分布する同属のHydrobius fuscipes (Linnaeus, 1758) が北海道に分布するとする文献もあり、このあたりは実は混乱のあったところでした。ネイチャーガイド日本の水生昆虫でもその点に触れています。

この論文ではH. pauperの模式標本の形態を詳細に調べて、H. fuscipesはじめユーラシアの同属種とは形態で区別が可能であること、H. pauperは本州の固有種である可能性があること、北海道でこれまで採集された個体はH. fuscipesに同定されることなどを指摘しています。

なお、H. pauperの模式産地は「Oyama, Honshu Island (Japan)(=神奈川県大山?※)」で、あの有名なG. Lewisの採集によるものです。また、H. pauperを記載したSharp自らが同じくLewisの採集した個体に基づいて北海道(幌別)からH. fuscipesを記録していることが書かれています。つまりSharpはこの2種を区別して北海道からfuscipesを記録し、大山から別種としてpauperを記載していたということになります。そして北海道にfuscipesが分布するという情報はこれが根拠になっています。

※先に栃木県小山としましたが、ルイス標本のOyamaは神奈川県大山の可能性が高いとのことです。修正いたします。ご教示いただいたY富先生ありがとうございます。

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こちらはネイチャーガイド日本の水生昆虫に掲載した「スジヒメガムシ」の2枚目と同一個体です。北海道根室市産ですので単純に分布域だけ考えると、この個体はH. pauperではなくH. fuscipesの可能性が高いということになります。

しかし北海道と言ってもその生物相は一様ではないことから、北海道産がすべてH. fuscipesとは言えません。また論文をみるとわかる通り古い限られた標本に基づいた調査であり、その違いも微妙な気がしなくもありません。新鮮な標本に基づいたさらなる研究が必要ではないかと思います。ちなみに本州のスジヒメガムシはかなり稀なようで、私は採ったことがありません。そのあたりも研究がなかなか進みにくい理由かもしれません。しかしもし本当に本州の真のスジヒメガムシH. pauperが本州固有の貴重なものであれば、きちんと取り扱い、場合によっては保全対象にすることなども考えなくてはいけないでしょう。まだまだわかっていないことがあります。ここはぜひとも実物で見比べてみたいものです。ということで本州産の標本あるいは生きた個体を提供いただけるという有難いお方をいつでもお待ちしております。よろしくお願いします。

余談ですが今回のこの論文ではネイチャーガイド日本の水生昆虫が引用されていました。うれしいです。英語タイトル、英語著者表記をつけた甲斐がありました。しかし・・せっかくわかりやすく苗字をすべて大文字にしたのに、一部間違われてしまっています・・ひろゆき・・

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