オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

書評

丸山宗利・吉田攻一郎・法師人響「驚異の標本箱ー昆虫ー」KADOKAWA,2020年

www.kadokawa.co.jp今年は生き物関係、良い本の出版が続きますが、これまたすごいのが出てしまいました。まさに驚異です。写真集?美術書学術書?どこにもあてはまり、どれか一つにはあてはまらない、とにかくこれまで国内で類書はまったくないものです。これは実際に手に取って、実物を見てもらわないとわからないかもしれません。私は感動しました。

内容を一言で言えば、最新のデジタル撮影技術を駆使して撮影した昆虫の写真に専門的な解説(英文も併記)をつけたもの、ということになります。が、とにかくその写真が素晴らしい。いわゆる深度合成という少しずつピントをずらして撮影した写真を合成して、すべてにピントがあった美しく細部まで見える昆虫の画像なわけですが、最新の技術に著者らのこだわりがプラスされていて、3名の著者それぞれの作品はそれぞれ作風が違い、どれもため息がでます。最新のデジタル技術を駆使した写真であるはずなのに、読んでいるとふと、もっともアナログともいえる、実物をその場でその目で見ている感覚にも陥りました。でも実際の自分の眼では絶対にこうは見えません。不思議な本です。

さて、このブログは湿地帯中毒ですので、やはり気になるのが水生昆虫。本書にはミズスマシ、ゲンゴロウタガメ、ヤゴ、トンボ、ホタル、カゲロウが登場しています。でもその写真は、どれもこれまでに見たことのないものでした。脳内の水生昆虫の「かたち」が本書を通して再構成された感じがします。それから忘れてはならないのがビーバーヤドリ。この種は水生動物のビーバーに寄生する甲虫で、寄生性水生昆虫にカテゴライズされる、業界では著名な奇虫です。ビーバーヤドリのこれほど美しく精密な写真は世界初公開ではないでしょうか。個人的にここは見どころです。堪能しました。

ということでここ数日は毎晩寝る前に読んでいます。高価な本ですが、この内容なら安いです。ぜひとも身近な場所に存在していて欲しい本です。おすすめです。

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そういえば巻末には著者3名がとある同じ昆虫をそれぞれの世界観で撮影し、各著者がそれぞれ「あとがき」を書いているのですが、個人的にこの部分が興味深く、面白かったです。