オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

浚渫、というのは河川管理上必須のものです。川というのは上から土砂が流れてきて堆積します。そうすると、川があふれやすくなります。特に住宅地や都市近郊では川があふれるのは非常に問題なので、定期的に浚渫をする必要があります。一方で、近代的な浚渫は河底の土砂を重機を使ってごっそりとっていくので、底生動物、特に動きが遅い二枚貝類やドジョウ類、あるいは一部の水草などに多大な悪影響を及ぼします。おそらく、一度の浚渫で絶滅したという事例は、かつて国内の各所であったのではないでしょうか。

ということで河川における保全対策で悩ましいのが、浚渫事業と生物多様性保全の両立です。基本的な考えとして、浚渫事業は流下断面を確保するために行われます。つまり必要な面積の流下断面が確保できれば、その形状は何でもよいということになります。という基本を押さえた上で、ここでは生物に配慮した浚渫例を2つ紹介したいと思います。

1つめは川幅いっぱいの水路的な河川で、川底にたまった土砂を浚渫する場合です。

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特に水路にはイシガイ目の二枚貝類が多産することが多くあります。通常、こうした川で浚渫する場合には、単純に必要な量まで土砂をとっていきます。しかしこうすると底質に潜って暮らしている生物は全滅します。そこで、岸際部と流心部を残して、その間を流下断面が確保できる深さまで、深めに浚渫します。二枚貝は極端に言えば流速を好み流心にいる種と、止水を好み岸際にいる種がいるので、流心部と岸際部のみを掘り残すことで、多様な種類を残せると考えました。また浚渫後はだんだんと川底が均されていきますが、それでも人工的にまっすぐに掘るよりはでこぼこした感じになり、多様な流水環境、そして底質環境ができ、イシガイ類をはじめとした多様な底生生物の生息に適した形の再生が期待できます。

 

2つめは河川敷のあるような川で、河川敷に堆積した土砂を浚渫する場合です。

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特に中下流域の河川では水際にドジョウ類やイシガイ類が多く生息しています。通常、こうした川で浚渫する場合には、単純に必要な断面になるよう直線的に土砂をとっていきます。しかしこうすると水際の底質に潜って暮らしている生物は全滅します。そこで水際を残して、陸域に堆積した土砂だけをとっていきます。もともと陸地だった場所は、いわゆるワンドやタマリに似たような浅い湿地環境になるので、ドジョウ類やイシガイ類はこうした環境でむしろ増えることが期待できます。

以上、2例を紹介しました。もっとも重要なのは、浚渫効果と生物多様性保全をいかに両立させるか、という視点です。浚渫をしないという選択肢はとれません。であるならば、むしろ浚渫を利用して生物を増やすことを考える必要があります。生物は一度減っても生息場さえあれば増えますが、絶滅すると復活しません。つまり浚渫時に「絶滅させない」ことがまず重要で、次に「増える環境を再生する」ことが重要となります。

実は、日本列島の氾濫原域の生物は攪乱に強く、種によっては攪乱がないと繁殖できない、というものすらいます。したがって、特に2の場合では、実際に浚渫後に多様な環境ができて、氾濫原性の生物が増加したと思われる例もあります。都市域の河川では上流にダムができ、また一方で河道を直線化するなどして、氾濫しにくい川になっていることがほとんどです。そのため、河川敷に浅い氾濫原湿地ができにくいのです。つまり2の例では人工的に攪乱を起こして、湿地再生を行っていると考えることもできます。

現実的には色々な制約があり、そううまいこと行く場合ばかりではありませんが、河川法において河川管理の目的として、治水・利水・河川環境の保全の3つのバランスをとって実施する、ということが明記されているので、こうした提案は近年では積極的に採用されることも少なくありません。あきらめずに、人間活動と湿地帯生物の保全・再生の両立を目指していきたいものです。

 

余談ですが、取り返しのつかない生物多様性の破壊を招くのは、実は、侵略性のある外来種や交雑を招く外来集団の放流・遺棄です。これをされてしまうと、いくら環境を再生しても、何もかも台無しになってしまいます。つまり外来種も在来種も、基本的に生物を野外に放してはいけません。基本的にそれらは環境破壊活動になります。場を再生して自力で増えるようにする、これが生物多様性保全の基本です(もちろん色々と例外はありますが)