生物多様性保全は社会的課題ということでいろいろなところで見聞きするようになり、環境問題としての重要性も認識されつつある昨今です。ではどんな本を読んだら勉強になりますか、ということをよく聞かれますので私が読んだ一般向け書籍のなかで勉強になった本をいくつか紹介します。
宮下 直(2016)となりの生物多様性 ―医・食・住からベンチャーまで.工作舎.
www.kousakusha.co.jp※著者は進化生態学や保全生態学が専門の研究者(東京大学教授)で、一般向けに「生物多様性の恵み」について解説した本です。生物多様性を保全すると具体的にどんな利益があるのかについてわかりやすく紹介しています。
ウラケン・ボルボックス(2019)侵略! 外来いきもの図鑑 もてあそばれた者たちの逆襲.パルコ.
※侵略的外来種を一種ずつイラスト中心に解説した本ですが、全体を通してみると生物多様性保全をなぜしなくてはいけないのか、その中で侵略的外来種対策をなぜしなくてはいけないのか、ということがよく理解できます。著者は生き物好きなイラストレーターの方ですので、テーマにあった適切かつうまくデフォルメされたイラストが大変すばらしいです。保全生態学や外来種問題が専門の五箇公一先生(国立環境研究所)が監修しており、内容も正確です。
以前に当ブログに書いた書評→リンク
山田俊弘(2020)〈正義〉の生物学 トキやパンダを絶滅から守るべきか.講談社.
bookclub.kodansha.co.jp※著者は森林生態学や保全生態学が専門の研究者(広島大学教授)で、国内での生物多様保全の議論の中で正面からとらえられることが少ない、いわゆる環境倫理の観点から生物多様性保全をする意義を説明している本です。この視点も重要だと思います。
以前に当ブログに書いた書評→リンク
小坪 遊(2020)「池の水」抜くのは誰のため?~暴走する生き物愛.新潮社.
※著者は新聞記者として、生物多様性保全や外来種問題をライフワークに多くの取材を行い記事を書いてきている方です。本書は近年ニュースになった話題を中心として、その背景を掘り下げて解説しています。各話題について、何が問題なのか、法令や論文などの最低限抑えるべき根拠を示した上で著者の意見が述べられており、内容も正確かつ建設的です。具体的事例に基づいているので、読んでいて面白く学べます。
2022年1月11日追記
さらに2冊紹介。
www.kyoritsu-pub.co.jp※やや専門的ですが、生物多様性やその成立様式、得られる利益、保全の枠組みなど、関連する広い分野について基本的な知識を科学的知見に基づいて丁寧に過不足なく解説しており、生物多様性とその保全の意義を無理なく学べます。特に著者は群集生態学の専門家であることから、生物多様性の成立様式と保全の視点を群集生態学的な観点からわかりやすく解説しています。
日本生態学会(編)・宮下 直・矢原徹一(責任編集)(2010)エコロジー講座3 なぜ地球の生きものを守るのか.文一総合出版.
www.bun-ichi.co.jp※写真が豊富で読みやすいです。しかし中身は科学的知見に基づいた事例研究を多く紹介しつつ、生物多様性保全を行う上で必要な生態学的知識がまんべんなく解説されています。
2024年4月7日追記
中島 淳・大童澄瞳(2023)自宅で湿地帯ビオトープ!生物多様性を守る水辺づくり.大和書房.
www.daiwashobo.co.jp※生物多様性保全につながるビオトープのつくり方を解説した本ですが、前半部分では生物多様性とは何か、生物多様性を保全する意義とは何かなどについて、わかりやすく解説しています。
ひとまず以上です。
特に意味なくカマツカです。私が好きな湿地帯生物です。
おまけ
その1 WWFの解説
その2 環境省の解説
その3 生物多様性基本法(2008年施行)