オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

1月も8日というのにまだ湿地帯に行っていませんでした。老化が著しいです。しかしさすがに精神があれになってきたので少しだけ夜の湿地帯に行ってきました。

夜の湿地帯!!!カエルが産卵してないかな~と思って見に来た次第です。

マメゲンゴロウがたくさん出てきていました。この種は早春に幼虫がいるので、今から繁殖期なのだと思います。

と、水際で何か動く影が!ヤマアカガエル君!!!!!今年もきちんと水辺にやってきていました。うれしいです。産卵はこれからのようですので、また見に来たいと思います。

ところでこの場所は、とある役所の方々の努力で残せた場所で(埋め立てられるところだった)、しかもその後もずっと維持してもらっているところです。希少種がいるということで、埋め立て回避に合意してくれた皆様方に感謝です。こうして少しずつでも野生生物に譲ってあげることができれば、変わる未来があるかもしれません。

日記

本州のサケが危機的状況、というニュースが昨年末からいくつも出ているのでメモしておきます。

ちなみにこの写真は2006年11月に福岡県内でみつかって九州大学に持ち込まれたサケです。

 

茨城県のサケのニュース。「茨城県内サケ捕獲過去最低 24年度26匹 採卵・放流に影響/茨城新聞/2024年12月31日」

ibarakinews.jp茨城県内のサケ捕獲数は1985年は47,692匹、2019年は5,258匹、2023年は120匹、そして2024年は26匹とのこと。サケの太平洋側の分布南限は茨城県です。

 

岩手県のサケのニュース。「岩手 NEWS WEB 県内の秋サケ漁 前年同時期比で過去最低の昨年度を下回る/NHK 岩手県のニュース/2024年12月10日」

www3.nhk.or.jp岩手県のサケの捕獲数は、1996年が73,500トン、2023年同じ時期で71.7トン、今年は63トンとのこと。

 

宮城県気仙沼市のサケのニュース。「気仙沼 秋サケ不漁 漁業の現場は /NHK仙台/2024年12月2日」

www.nhk.or.jpグラフが衝撃的です。2013年の465,648匹が2023年には1,202匹。激減しています。

 

新潟県内のサケのニュース。「鮭は幻の魚に…?「鮭の町」新潟県村上市がピンチ!捕獲数が激減、全国的不漁で稚魚確保も難しく/新潟日報/2024年12月24日」

www.niigata-nippo.co.jp2015年度は46万9千匹、2023年度は5万5千匹、2024年は11月末時点で2万8500匹で前年同期比37%減とのこと。

ちなみに環境省レッドデータブックの絶滅危惧IA類の選定基準2では「過去10年間~中略~80%以上の減少があったと推定され、その原因がなくなっていない」とあるので、本州の大部分のサケはそれをはるかに上回る減少率ですから、絶滅危惧IA類に選定して全力で保全するレベルです。

 

生物多様性が壊れてサケが減っているわけなので、当然他の野生生物も減っています。例えば霞ヶ浦のワカサギのニュース。「霞ヶ浦のワカサギ漁 出荷量わずか42キロ 過去最悪の不漁に/NHK 茨城県のニュース/2024年12月16日」

www3.nhk.or.jp霞ヶ浦のワカサギは2019年122トン→2020年34トン→2021年19トン→2022年9トン→2023年0.8トン→2024年今のところ0.04トン、とのこと。ここは在来集団なので生物多様性保全上の問題も大きいのです(太平洋側の南限個体群)。高水温が問題というのであれば、流入河川や周辺湿地の再生による湧水の再生が重要と思います。例えばこの記事によると「昔、帆曳き船の漁師だった古老の話では、霞ケ浦の湖底には地下水の湧出口が何カ所もあり、潜ると冷たい水が噴出していた」「現在ではその位置を確認することはできません」とあり、かつて豊富な冷たい湧水があったことがうかがわれます。

www.tsuchiura.org

サケもワカサギもですが、地球温暖化が原因、というなら、陸域でなるべくコンクリートを使わないとか湧水を増やすとか沿岸域のエコトーンを再生するとか街路樹を増やすとか、やるべきことがあるはずです。放流しても増えないのに放流しかしないのなら、科学的に考えて、絶滅します。それでもサケが絶滅なんて、と思う人もいるかもしれませんが、佐賀県は絶滅の恐れのある地域個体群、福岡県は野生絶滅、山口県は絶滅危惧IA類として選定されています。つまり分布西限域ではほぼ絶滅しました。だから放流しても増えないのに放流しかしないなら絶滅する可能性があります。

農林水産省として、例えば水路改修の方針を変えるとか休耕地を湿地帯化するとか、管轄内でできることをしていないわけですから、温暖化で仕方ないなーと言ってるだけなのは無責任と私は思っています。希少野生生物の保全と言う視点から、なりふり構わず、国交省環境省とも協働していくべきでしょう。東北地方でいえば、マルコガタノゲンゴロウやゼニタナゴの減少は、サケの減少にもつながっています。希少な野生生物が増えるような湿地帯が再生すれば、サケの生息状況が改善する可能性が高いと考えられます。

サケもワカサギも非常に大事な日本の食文化です。その根本である材料、生物多様性の恵みがなくなることに、どうしてこんなにこの国は無頓着なのでしょうね。絶滅していないのであれば、環境が再生できれば、増えるはずです。日本の文化を守るために環境を再生する努力をしていくことに、合意形成ができないものでしょうか。

 

日記

ということで今年の湿地帯生物の思い出4選です。

レイホクナガレホトケドジョウ。今年に新種として記載されましたが、その前に発見者である西村氏と研究を進めている片山氏の両氏に生息地をご案内いただいて、実際に観察することができました。本当にありがとうございました!もうなんとも言いようのないドジョウで、なんとか滅びずに生き残るよう努力しなくてはいけません。

新種記載論文の紹介とともに書いた記事が以下です↓

oikawamaru.hatenablog.com

 

次の1枚はイトヨ淡水型です。トゲウオ類はあまり縁がなかったのですが、トゲウオ研究の第一人者である森誠一先生にお声がけいただき、岩手県大槌町での調査を行う機会がありました。ありがとうございました!透明度の高い湧水に暮らすイトヨの様子は大変感動しました。こちらもまた、滅びないでいて欲しいです。

夏の調査の様子を記事にしています↓

oikawamaru.hatenablog.com

 

それから3つ目はウグイ(塩焼き)です。長野県千曲川には「つけば小屋」という文化があるのですが、今年は念願のつけば小屋を訪れてウグイを食べることができました。こちらはフナ豆先生にお声がけいただいて実現しました。ありがとうございました!いつまでも続いて欲しい文化です。

さっきブログ記事を書きました。以下です↓

oikawamaru.hatenablog.com

 

最後の1枚はタガメです。秘密すぎるので詳細は書きませんが、とある地域にあるタガメの楽園を訪れました。まだこんな湿地帯が残っていたのかと感動しました。また行きたいです。

ということで以上今年の4枚でした。日本各地にまだ素敵な湿地帯生物が生き残っています。文化もあります。努力しなくては守れません。そのためには生物多様性を守るという視点が必要です。来年もまた各地の湿地帯生物に出会いたいと思います。それでは皆様良いお年を。

 

千曲川ウグイツアー

今年2024年5月17日~20日かけて、長野県の千曲川流域にウグイ食べ歩きツアーに行ったので、忘れないうちにここに記録しておきます。千曲川流域には「つけば漁」といって、ウグイの産卵場(=つけ場)を人工的につくってそこに集合したウグイを捕獲する漁法があります。さらにこの「つけば」の横に小屋を建てて、獲れたてのウグイを賞味する文化(つけば小屋)があるのです。往時は数十軒のつけば小屋が並んでいたそうですが、ウグイの減少等によりだんだん減ってきて、現在は数軒が残るのみとのことでした。

私の幼少時にもっとも慣れ親しんでいた魚がウグイであり、そんなウグイの独特な食文化はぜひとも一度体験してみたいなと思っていました。そんな折、ウナギ目魚類の研究者で淡水魚食文化に詳しいフナ豆先生にお声がけいただきました。前年から万全のスケジュール調整を行い参加いたしました。

 

第1日目(5月17日)

福岡空港から羽田空港へ、そこから東京駅に行って新幹線で上田駅まで行きました。六文銭が存在感を放っています。初めて来ました。せっかくなので上田城も見てきました。良い石垣と堀でした。

 

旅先では私は必ずその都市名とドジョウ料理などで検索するわけですが、上田市にはドジョウを食べることができる居酒屋があるという情報をキャッチしていました。ということで、夕方その場所に行くと燦然と泥鰌の文字が輝いていました。今日はここで孤独のドジョウグルメに決定します。

から揚げ!

どぜう丸鍋

孤独のドジョウグルメのはずでしたが、きさくな店主さんと常連さんと大変盛り上がり(九州からわざわざドジョウを食べに来た変わり者の博士ということで・・)、楽しい一夜でした。ありがとうございました!

 

2日目(5月18日)

さて、夜が明けて5月18日です。本番です。無事に主催者フナ豆氏、各地の達人・たいち氏、oryza氏、fukatani氏、CBP氏と合流できました。

まずは坂城町の「魚としつけば鮎小屋」さんに行きました。小屋構えを見ただけで興奮度はMAXです。

待望のウグイ塩焼き!(ちなみにここでは赤魚と呼ばれます)

山椒味噌焼き!

天ぷら!まさにウグイのフルコースです。そしてどれも美味すぎました。

 

せっかくなので、ナマズと山菜の天ぷらも。

 

その後は実際に「つけば」を見せてもらいました。新鮮な砂利を好むということで、産卵期中は(つまりつけば小屋営業中は)、毎日、新鮮な砂利を投入していきます。そして集まってきたところを定期的に投網で捕獲するということです。このつけば文化をなんとか繋いでいきたいとの熱く興味深いお話も聞かせていただき勉強になりました。お忙しいところありがとうございました!

 

夜は少し遠くに行きまして、軽井沢町の「ゆうすげ」さんに行きました。

うなぎ、の文字が輝いていますが、今回の我々はウナギは食べません。

イワナのお刺身!

イワナなめろう

はや(ウグイ)のから揚げ甘だれ和え!これは個人的に感動的なおいしさでした。

ドジョウから揚げ!

私は食べて楽しんでいるだけですが、同行者は本気の取材の一環でもありますので、料理が来るたびに激写タイムです。お店の方からは「Youtuberか何かですか?・・」と質問がありましたが、何をしているのかはきちんと説明しておきました。問題ありません。ご心配をおかけしました。

ということで本日の宿へ。さんざん食べましたが飲み会です。ここから新たにハタツモリ氏が合流です。oryza氏が和歌山・紀ノ川の伝説の名物であるところの、「じゃこ寿司(オイカワの押し寿司)」をもってきてくれました。これはスゴイ!美味しかったです。

 

3日目(5月19日)

朝です。フナ豆氏は豊富な知識も然ることながら異常にものを食べることができるので、朝から名物の探索に余念がありません。

長野といえばソバのイメージですが、この地域には「おしぼりうどん」という名物があるそうです。そして宿の近くには朝からやっているうどん屋が・・

食べないわけにはいきません。これがその「おしぼりうどん」です。辛味大根をすりおろしたものに味噌を混ぜたつけ汁で食べるという大変刺激的なものでした。

今日もつけばに行く予定でしたが、開店までまだ時間があったので、町の中をうろうろしていたらアユの甘露煮屋を発見しました!当然行きます。

 

お店で色々とウグイやアユのことを教えてもらいました。

かつては「はや甘露煮」の缶詰をつくっていたそうですが、今はしていないそうです。

お土産に鮎の甘露煮を買いました。後日自宅で食べましたが、優しい味で美味しかったです!

 

昼になったので上田市の「鯉西のつけば小屋」さんに行きました。上田駅から近く、有名店です。

盛り上がりますね。

焼かれています!

まずはコイのあらい。

ウグイの塩焼き!

ウグイとアユの山椒焼き!

カジカの塩焼きです!やはりだいぶ採れなくなっているとか。

ドジョウのから揚げも食べました。

なんとこちらでもつけば漁を見せてもらうことができました。

ウグイも年々減っているということでしたが、獲れたてのウグイを見せてもらいました。美しい!名物社長の熱いお話は大変面白く、勉強になりました。お忙しいところありがとうございました!

 

漁の様子を激写するフナ豆先生です。

付近の石にはウグイの卵がたくさん付着していました!

 

午後は夕食の食材を買い出しに行きます。今日は自炊可能な宿を予約しているとのこと。向かう先は佐久養殖漁業協同組合です!

豊富な湧水を使った養殖池は圧巻でした。

佐久鯉です!(色鯉は目印的な個体で、食用は黒いのです)。ということで一匹購入です。

シナノユキマスです!幼少時に図鑑で見た憧れの魚。本種はコレゴヌス属というヨーロッパに広く分布するサケ科の一種で、Coregonus maraenaという種類がシナノユキマスのようです。長野県では古くから養殖され特産品になっています。購入しました。

こちらはニジマスブラウントラウトをかけあわせてつくられた「信州サーモン」という品種。こちらも購入しました。

以上3匹をメインにフナ豆先生はじめとする料理の達人たちが自前の包丁持参で鮮やかに料理をしていきます(※私は普通にさばいたり煮たり焼いたりはしますが、ここには達人しかいないため、もはや戦力外で出る幕はありませんでした)。

シナノユキマスのお刺身!想像以上に良いものでした。

佐久鯉のあらい!実は今回もっともその味に感動したものの一つかもしれません。鯉は美味しいと思っていましたが、これほどとは・・。佐久鯉の良さもさることながら、氷水にさらすタイミングなど、フナ豆先生の技が炸裂していたのではないかと私は思っています。

信州サーモンのお刺身!文句のつけようはありません。色々と言いたいことのある日本の水産ですが、やはりこうしたところの種苗生産・育種の技術は世界に誇るものだと思います。

 

佐久鯉の中華風何か。美味。

シナノユキマスのクリーム煮。うなるほど美味しかったです(※そろそろ語彙が尽きてきました)

 

4日目(5月20日

いよいよ最終日です。最後まで淡水魚を食べます。

朝食は昨晩の残り。シナノユキマスと信州サーモンのあら汁、信州サーモン丼と、贅沢な逸品でした。

午前中はフナの水田養殖場を見に行きました。非常に良い水田で、マルタニシなども見え、生物多様性も高そうです。ただ、外来種のカラドジョウが見えました。「ドジョウ」として持ち込まれてしまったのだと思いますが、おそらく本来はこの地域にいるのはドジョウもしくはキタドジョウ。カラドジョウとは姿も味も違いますので、在来種にこだわった養殖、文化の再生が今後進むと良いなと思いました。

 

今回最後のつけば小屋です。千曲市の「つけば 吉池小屋」さんに行きました!

良い感じです!

たくさんのウグイの塩焼き!

山椒焼き!ここのつけば小屋の山椒味噌はちょっと変わっていてとても印象深い良いものでした。また食べたいです。

 

ということで以上、千曲川ウグイツアーでした。今回は3店ものつけば小屋を巡ることができました。

冒頭書いたように、つけば小屋も急速に数を減らしており、それは河川環境の悪化に伴うウグイの減少とも無関係ではありません。つけば漁は産卵に来るウグイを捕獲するものですが、産卵する場所は流域内に広くあり、また、捕獲するタイミングによっては産卵が終わった後になってしまったりと、根こそぎ獲るような漁法ではないこともよくわかりました。この漁では人工的に良質な産卵場を整備するということですから、天然のウグイを増やす効果もあると考えられます。実際に、つけばの周りには卵のついた石が多く転がっている様子も見ることができましたし、つけばの周りにはすでに孵化したウグイの稚魚が泳いでいる様子も見ることができました。根こそぎ獲らないこの”緩さ”とでも言いましょうか、本来、きわめて牧歌的で持続的な漁法と文化だったはずです。この時期のウグイは大変おいしく、見た目も華やかで、川の流れを見ながら、音を聞きながら、そこで獲れたウグイを食べるという体験は、私にとって唯一無二のものでした。つけば小屋の存在は、生物多様性の供給サービスであり文化的サービスでもあるわけです。このつけば小屋が、当地の生物多様性とともに、いつまでも続いて欲しいと思います。そのためにはもっと、河川周辺の環境の再生も、考えていくべきでしょう。

最後になりましたが、今回お声がけいただき全体の旅程を細かく作成いただいたフナ豆先生、それから同行いただいた皆様、淡水魚を食べさせてくれたお店や養殖場の皆様に厚くお礼申し上げます。またいつか行きます。とても思い出深い旅でした。

 

論文

日本昆虫分類学会誌に日本産の真正水生昆虫類の新記録が出ていました。2新種・2新記録種です。日本のファウナに4種が加わりました。以下その3つの論文を紹介します。

 

紹介1つ目、私も共著の論文です。

Usui, S., Mitamura, T., Iwasaki, K., Aiso, T., Nakajima, J., Ishida, K. (2024) First record of Micronecta (Sigmonecta) altera Wróblewski (Heteroptera: Micronectidae) in Japan and key to Japanese species. Japanese Journal of Systematic Entomology, 30 (2): 280-283. 

ネッタイホソチビミズムシ(和名新称) Micronecta altera Wróblewski, 1972を日本から初記録です!本種は中国南部~東南アジア、南アジアにかけての熱帯地方に広く分布し、今回、石垣島西表島与那国島からの発見です。初記録なので和名も新たに提唱しました。チビミズムシ属の中では体型が細めで、熱帯地方に分布の中心があることから、この名前となりました。

気になるその姿はこちらです!(生体写真はすりぃぱぁ~さんに提供いただきました。ありがとうございます!)

体長は2.5~3.5mmと、ハイイロチビミズムシくらいの大きさです。八重山諸島ではチビミズムシ属は4種記録されていますが、このうちモンコチビミズムシとフタイロコチビミズムシは流水性で体長も2mm程度とかなり小型で区別できます。また残りの2種ハイイロチビミズムシとケチビミズムシは同程度の体長ですが、本種は明らかに体が細いので見た目での区別も容易と思います。もちろん正確な同定には交尾器の観察が必須です。それから本論文ではチビミズムシ科Micronectidaeを使用しています。従来本属はミズムシ科Corixidaeとされていましたが、近年では分子系統解析の結果なども踏まえて、別の科として扱うことが主流なことを踏まえています。

本種の存在は、実はネイチャーガイド日本の水生昆虫を一緒に作成したISHIDAさんが20年ほど前から気づいていまして、その話を聞いた後で、私も西表島で採集していました。確かに違うと確信したものの、どうにも混乱した分類群で同定が難しく、そこで止まっていました。今年になってUSUIさんMITAMURAさんが精力的に調べ始めて、今回皆さん共著としてひとまず学名をあてて記録した次第です。存在が明確になったので、今後新たな生息地が発見されるかもしれません。

 

続いて2つ目の紹介です。

Hayashi, M., Kamite, Y., Ogawa, N. (2024) Revision of the genus Grouvellinus Champion (Coleoptera, Elmidae) from Japan, with descriptions of two new species. Japanese Journal of Systematic Entomology, 30(2): 361-390. 

日本産ナガアシドロムシ属のリビジョンと2新種の記載です。今回新種としてガンバンナガアシドロムシ Grouvellinus ganban Hayashi, Kamite & Ogawa, 2024とヤクシマナガアシドロムシ Grouvellinus yaku Hayashi, Kamite & Ogawa, 2024の2種を記載するとともに、既知のツヤナガアシドロムシ、キベリナガアシドロムシ、マルナガアシドロムシ、サトウナガアシドロムシの4種について再記載を行っています。

ということでまずはガンバンナガアシドロムシです。今回、本州(岐阜県、愛知県、石川県)、四国(徳島県香川県高知県愛媛県)、九州(福岡県、大分県)から記録され、タイプ産地は愛媛県松山市です。体長約1.8~2.3mmでちょうどツヤナガアシやキベリナガアシと同じくらいの大きさですが、各脚が赤く体もやや丸いので、慣れれば区別は容易です。

本種は故・O師匠がはじめに気づいた種類で、ヒメドロムシを習い始めた頃に、これは違うと思うんですよと教えてもらった思い出の種類です。私のヒメドロムシ研究の第一歩である緒方・中島(2006)で学名未決定で示したのが初登場です。もちろん今回の記載論文でも本種の初出として引用されています。各脚が赤いのが最大の特徴ですが、名前の通り「岩盤」、特に水しぶきが常時あたるような蘚苔類の生えた渓流の岩盤に生息します。O師匠ともこれは「ガンバン」ですね~と話あって、ガンバン(仮)と長く呼んでいました。和名もそれになって感慨深いです。

続いてヤクシマナガアシドロムシです。今回、九州(鹿児島県本土)と屋久島から記録され、タイプ産地は屋久島です。こちらも各脚が赤いですが、体長1.8~2.0mmと、ガンバンよりわずかに小型です。イメージとしては南西諸島のマルナガアシドロムシと今回のガンバンナガアシドロムシを足して2で割ったような感じです。

本種は私は2007年頃に九州を何周もしながら魚類調査をしていた時に大隅半島で採集したのが最初です。明らかにガンバン(仮)でもツヤナガアシでもなく、未記載種の可能性が高いと思いましたが、この仲間は難しく、自ら手掛けることはありませんでした。こうしてようやく記載されて良かったです。今のところ、大隅半島には広くいることを確認していますが、屋久島との共通要素として生物地理学的に興味深い種ですし、九州本島ではどれだけ北までいるのかなど、調べてみたいところです。

 

続いて最後3つ目の紹介です。

Hayashi, M., Iwata, Y., Yoshitomi, H. (2024) Ochthebius lobatus Pu, 1958 from Japan (Coleoptera, Hydraenidae). Japanese Journal of Systematic Entomology, 30(2): 333-335. 

日本からクチカクシダルマガムシ (和名新称)Ochthebius lobatus Pu, 1958の初記録です。これは驚きです。中国や朝鮮半島から記録のある種で、今回は本州(埼玉県,群馬県,長野県)から発見されました。採ったことがありません。たぶん。たぶんというのはなぜかと言うと、この種類は超普通種として知られるセスジダルマガムシOchthebius inermisと見た目がそっくりで、生息環境もそっくり(河川敷のアオミドロが繁茂するような水たまり)だからです。なので私がすでに採集していて気付いてないだけかもしれません。区別点は吻端で、ここがセスジダルマガムシでは凹みがないのですが、本種では凹みがあります。ただしこの凹みは上からは見えないので「口隠し」という和名になったそうです。慣れると体型の違いから区別可能というウワサなので、ぜひ探してみて下さい。朝鮮半島と本州にいるのなら、九州にもいそうです。私も発見したいものです。

 

ということで年の瀬も迫る中、日本のファウナに新たに加わった4種の真正水生昆虫たちでした。日本の生物多様性は、種の多様性ですら未解明の部分は多いですし、調査して論文にしなくてはいけないことが多く残されています。ましてやそれぞれの種の関係性や生態系の成立システムについてはわかってないことばかり。何もわかってないのに壊している場合ではありません。保全して再生しましょう。

 

日記

農水省有明海再生に交付金新設へ 予算案に10億円計上で調整」という新聞記事を見ました。もう諫早湾はあけない、という前提で10年間総額100億円規模の交付金を出すということだそうです。

mainichi.jp

また、本件について「「漁業者の手取り増加に期待」 江藤農相、有明海再生支援で」という新聞記事もみました。

news.yahoo.co.jp

この上記の2つの記事を見ますと、農林水産省が考える有明海再生の秘策は「海底の耕運」「二枚貝の養殖」「藻場の再生」であるとのことなので、ちょっと絶望しています(野生のスサビノリとかアサクサノリがもさもさ生えた”藻場”を有明海に再生したいと農水省様が考えている可能性はありますが、有明海湾奥部には”いわゆる藻場”は発達しません)。これを100億円使ってするそうなので、無理よりの無理です・・いくらなんでも・・。

 

さて、ご存知の通り、有明海の生物相は壊滅しつつあり、かつていくらでもいた水産有用種も壊滅的です。このことは以前に本ブログでも記事にしました。

oikawamaru.hatenablog.com

その理由は複合的であり、諫早湾干拓もその一つですが、筑後大堰からの大量の取水(水は主に福岡市に行っている)、ずっと続いている筑紫平野の農業水路のコンクリート化、流入河川での大規模河川改修などすべての積み重ねなのでしょう。とは言え、水産業が完全にだめになってしまうと、当地域における飲食業や観光業は大きなダメージを受けるものと思います。

だから有明海再生というのは地域のためにもなんとか進めていく必要があるわけですが、そのためにはこの交付金有明海がきちんと再生していかなくてはいけませんし、実際に再生しているかどうかをきちんとチェックしていく必要があります。漁業の場でもありますが、みんなの海でもあります。税金を使った事業ですから、私も、国民の一人として見ていきたいと思います。

 

そして、私が思う有明海再生策の一つは、ずばり、沿岸域のエコトーン再生です。

実際に行ってみるとわかりますが、有明海の今の沿岸域はほとんど上の画像のような感じで、完全にエコトーンが壊れているのです(これは柳川市矢部川河口)。

 

それを少しでも、上の風景のようにしていく(写真はみやま市矢部川下流)。これが真の有明海再生につながると考えます。もちろん防潮対策は重要です。だから堤防を壊して元に戻すということを言いたいわけではありません。堤防を設置した理由、必要な理由はあるわけですから、その目的は達成したままで、新しい思想での、新しいデザインの、有明海再生モデルの新しい多自然堤防をつくっていくべきです。そういう公共工事をガンガン入れていくことこそが、地方創生につながる正しい税金の使い方ではないか、そのように私は考えています。

ちなみに上の写真の場所ですが、岩をひっくり返すとこのようにカワザンショウガイの仲間がたくさんいます。実はここはもともと垂直護岸が入っていた場所ですが、エコトーン再生を目的として護岸を少し削り、ちょっと上流側から植物をもってきて、再生した場所なのです。再生から数年で多くの生物がすむようになりました。これが有明海の沿岸域全体で生じたら、色々な生物が増え、水産有用種も増えると思いませんか。いくつかの生態学的研究の成果を見ても、その仮説は十分に成り立つと思います。少なくとも「海底耕運」「二枚貝養殖」「藻場造成」よりは、確実に、有明海全体の再生に近づくと私は考えます。

有明海湾奥部についていえば、再生すべきは沿岸域のエコトーンです。生態系の仕組みが、普通の海とは違うのです。再生すべきはヨシからイセウキヤガラ、そしてシチメンソウと連なる”大草原”です。道のりは遠そうです。

農林水産省は大丈夫でしょうか。本当に、これからの有明海が、心配です。

こちら有明海沿岸にわずかに残るイセウキヤガラ群落です。干潮時には草原となり、満潮時には水没し”藻場”のようになります。有明海湾奥部で再生するべきは、こうした環境です。