今年2024年5月17日~20日かけて、長野県の千曲川流域にウグイ食べ歩きツアーに行ったので、忘れないうちにここに記録しておきます。千曲川流域には「つけば漁」といって、ウグイの産卵場(=つけ場)を人工的につくってそこに集合したウグイを捕獲する漁法があります。さらにこの「つけば」の横に小屋を建てて、獲れたてのウグイを賞味する文化(つけば小屋)があるのです。往時は数十軒のつけば小屋が並んでいたそうですが、ウグイの減少等によりだんだん減ってきて、現在は数軒が残るのみとのことでした。
私の幼少時にもっとも慣れ親しんでいた魚がウグイであり、そんなウグイの独特な食文化はぜひとも一度体験してみたいなと思っていました。そんな折、ウナギ目魚類の研究者で淡水魚食文化に詳しいフナ豆先生にお声がけいただきました。前年から万全のスケジュール調整を行い参加いたしました。
第1日目(5月17日)
福岡空港から羽田空港へ、そこから東京駅に行って新幹線で上田駅まで行きました。六文銭が存在感を放っています。初めて来ました。せっかくなので上田城も見てきました。良い石垣と堀でした。
旅先では私は必ずその都市名とドジョウ料理などで検索するわけですが、上田市にはドジョウを食べることができる居酒屋があるという情報をキャッチしていました。ということで、夕方その場所に行くと燦然と泥鰌の文字が輝いていました。今日はここで孤独のドジョウグルメに決定します。
から揚げ!
どぜう丸鍋!
孤独のドジョウグルメのはずでしたが、きさくな店主さんと常連さんと大変盛り上がり(九州からわざわざドジョウを食べに来た変わり者の博士ということで・・)、楽しい一夜でした。ありがとうございました!
2日目(5月18日)
さて、夜が明けて5月18日です。本番です。無事に主催者フナ豆氏、各地の達人・たいち氏、oryza氏、fukatani氏、CBP氏と合流できました。
まずは坂城町の「魚としつけば鮎小屋」さんに行きました。小屋構えを見ただけで興奮度はMAXです。
待望のウグイ塩焼き!(ちなみにここでは赤魚と呼ばれます)
山椒味噌焼き!
天ぷら!まさにウグイのフルコースです。そしてどれも美味すぎました。
せっかくなので、ナマズと山菜の天ぷらも。
その後は実際に「つけば」を見せてもらいました。新鮮な砂利を好むということで、産卵期中は(つまりつけば小屋営業中は)、毎日、新鮮な砂利を投入していきます。そして集まってきたところを定期的に投網で捕獲するということです。このつけば文化をなんとか繋いでいきたいとの熱く興味深いお話も聞かせていただき勉強になりました。お忙しいところありがとうございました!
夜は少し遠くに行きまして、軽井沢町の「ゆうすげ」さんに行きました。
うなぎ、の文字が輝いていますが、今回の我々はウナギは食べません。
イワナのお刺身!
イワナのなめろう!
はや(ウグイ)のから揚げ甘だれ和え!これは個人的に感動的なおいしさでした。
ドジョウから揚げ!
私は食べて楽しんでいるだけですが、同行者は本気の取材の一環でもありますので、料理が来るたびに激写タイムです。お店の方からは「Youtuberか何かですか?・・」と質問がありましたが、何をしているのかはきちんと説明しておきました。問題ありません。ご心配をおかけしました。
ということで本日の宿へ。さんざん食べましたが飲み会です。ここから新たにハタツモリ氏が合流です。oryza氏が和歌山・紀ノ川の伝説の名物であるところの、「じゃこ寿司(オイカワの押し寿司)」をもってきてくれました。これはスゴイ!美味しかったです。
3日目(5月19日)
朝です。フナ豆氏は豊富な知識も然ることながら異常にものを食べることができるので、朝から名物の探索に余念がありません。
長野といえばソバのイメージですが、この地域には「おしぼりうどん」という名物があるそうです。そして宿の近くには朝からやっているうどん屋が・・
食べないわけにはいきません。これがその「おしぼりうどん」です。辛味大根をすりおろしたものに味噌を混ぜたつけ汁で食べるという大変刺激的なものでした。
今日もつけばに行く予定でしたが、開店までまだ時間があったので、町の中をうろうろしていたらアユの甘露煮屋を発見しました!当然行きます。
お店で色々とウグイやアユのことを教えてもらいました。
かつては「はや甘露煮」の缶詰をつくっていたそうですが、今はしていないそうです。
お土産に鮎の甘露煮を買いました。後日自宅で食べましたが、優しい味で美味しかったです!
昼になったので上田市の「鯉西のつけば小屋」さんに行きました。上田駅から近く、有名店です。
盛り上がりますね。
焼かれています!
まずはコイのあらい。
ウグイの塩焼き!
ウグイとアユの山椒焼き!
カジカの塩焼きです!やはりだいぶ採れなくなっているとか。
ドジョウのから揚げも食べました。
なんとこちらでもつけば漁を見せてもらうことができました。
ウグイも年々減っているということでしたが、獲れたてのウグイを見せてもらいました。美しい!名物社長の熱いお話は大変面白く、勉強になりました。お忙しいところありがとうございました!
漁の様子を激写するフナ豆先生です。
付近の石にはウグイの卵がたくさん付着していました!
午後は夕食の食材を買い出しに行きます。今日は自炊可能な宿を予約しているとのこと。向かう先は佐久養殖漁業協同組合です!
豊富な湧水を使った養殖池は圧巻でした。
佐久鯉です!(色鯉は目印的な個体で、食用は黒いのです)。ということで一匹購入です。
シナノユキマスです!幼少時に図鑑で見た憧れの魚。本種はコレゴヌス属というヨーロッパに広く分布するサケ科の一種で、Coregonus maraenaという種類がシナノユキマスのようです。長野県では古くから養殖され特産品になっています。購入しました。
こちらはニジマスとブラウントラウトをかけあわせてつくられた「信州サーモン」という品種。こちらも購入しました。
以上3匹をメインにフナ豆先生はじめとする料理の達人たちが自前の包丁持参で鮮やかに料理をしていきます(※私は普通にさばいたり煮たり焼いたりはしますが、ここには達人しかいないため、もはや戦力外で出る幕はありませんでした)。
シナノユキマスのお刺身!想像以上に良いものでした。
佐久鯉のあらい!実は今回もっともその味に感動したものの一つかもしれません。鯉は美味しいと思っていましたが、これほどとは・・。佐久鯉の良さもさることながら、氷水にさらすタイミングなど、フナ豆先生の技が炸裂していたのではないかと私は思っています。
信州サーモンのお刺身!文句のつけようはありません。色々と言いたいことのある日本の水産ですが、やはりこうしたところの種苗生産・育種の技術は世界に誇るものだと思います。
佐久鯉の中華風何か。美味。
シナノユキマスのクリーム煮。うなるほど美味しかったです(※そろそろ語彙が尽きてきました)
4日目(5月20日)
いよいよ最終日です。最後まで淡水魚を食べます。
朝食は昨晩の残り。シナノユキマスと信州サーモンのあら汁、信州サーモン丼と、贅沢な逸品でした。
午前中はフナの水田養殖場を見に行きました。非常に良い水田で、マルタニシなども見え、生物多様性も高そうです。ただ、外来種のカラドジョウが見えました。「ドジョウ」として持ち込まれてしまったのだと思いますが、おそらく本来はこの地域にいるのはドジョウもしくはキタドジョウ。カラドジョウとは姿も味も違いますので、在来種にこだわった養殖、文化の再生が今後進むと良いなと思いました。
今回最後のつけば小屋です。千曲市の「つけば 吉池小屋」さんに行きました!
良い感じです!
たくさんのウグイの塩焼き!
山椒焼き!ここのつけば小屋の山椒味噌はちょっと変わっていてとても印象深い良いものでした。また食べたいです。
ということで以上、千曲川ウグイツアーでした。今回は3店ものつけば小屋を巡ることができました。
冒頭書いたように、つけば小屋も急速に数を減らしており、それは河川環境の悪化に伴うウグイの減少とも無関係ではありません。つけば漁は産卵に来るウグイを捕獲するものですが、産卵する場所は流域内に広くあり、また、捕獲するタイミングによっては産卵が終わった後になってしまったりと、根こそぎ獲るような漁法ではないこともよくわかりました。この漁では人工的に良質な産卵場を整備するということですから、天然のウグイを増やす効果もあると考えられます。実際に、つけばの周りには卵のついた石が多く転がっている様子も見ることができましたし、つけばの周りにはすでに孵化したウグイの稚魚が泳いでいる様子も見ることができました。根こそぎ獲らないこの”緩さ”とでも言いましょうか、本来、きわめて牧歌的で持続的な漁法と文化だったはずです。この時期のウグイは大変おいしく、見た目も華やかで、川の流れを見ながら、音を聞きながら、そこで獲れたウグイを食べるという体験は、私にとって唯一無二のものでした。つけば小屋の存在は、生物多様性の供給サービスであり文化的サービスでもあるわけです。このつけば小屋が、当地の生物多様性とともに、いつまでも続いて欲しいと思います。そのためにはもっと、河川周辺の環境の再生も、考えていくべきでしょう。
最後になりましたが、今回お声がけいただき全体の旅程を細かく作成いただいたフナ豆先生、それから同行いただいた皆様、淡水魚を食べさせてくれたお店や養殖場の皆様に厚くお礼申し上げます。またいつか行きます。とても思い出深い旅でした。