オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

某川で捕獲され名前がよくわからないという魚が持ち込まれたので、種同定などをしました。生物多様性保全上、県内の生物相を地道に調べていくことはきわめて重要です。とかなんとか仰々しいですが、珍しい魚が採れたら後回しにできる仕事などすべて放り出して調べます。

外部形態、鰭条数、鰓耙数、幽門垂数などを詳細に調べていきます。

頭部にはあまり斑点がありません。

ということで結論としてサクラマスであろう、ということになりました。とりあえずとりだした内臓はホルマリン固定して、本体は冷凍し、しかるべき時にどこかの博物館に標本として寄贈しようと思います。実はサケ属の同定はかなり難しい部類に入ります。その上、私の主戦場である九州ではあまりなじみのある分類群ではないので、けっこう苦労しました。
よく知られるヤマメはすなわちこのサクラマスの陸封集団のことであり、種としての和名はサクラマスになるわけですが、九州では基本的にヤマメとして生活する集団しかいません。しかしながら、九州でも時折海から上ってくる「サクラマス」が捕獲されているようで、江戸時代の博物学貝原益軒は、筑後川でヤマメとは別のマスが採れるという記録を残しています。これはかつて筑後川にも海と川を行き来する「サクラマス」集団が存在したことを示唆します。したがって江戸時代くらいまでは九州北部でも回遊型の生活史をもつ「サクラマス集団」が比較的ふつうに各地にいたのかもしれません。
<参考>
木村清朗・塚原 博(1969)有明海で獲られたギンケヤマベについて.魚類学雑誌,16:131-134.(PDF
中島 淳(2013)筑前国風土記において貝原益軒が記録した福岡県の淡水魚類.伊豆沼・内沼研究報告,7:23-37.(PDF)