本州のサケが危機的状況、というニュースが昨年末からいくつも出ているのでメモしておきます。

ちなみにこの写真は2006年11月に福岡県内でみつかって九州大学に持ち込まれたサケです。
茨城県のサケのニュース。「茨城県内サケ捕獲過去最低 24年度26匹 採卵・放流に影響/茨城新聞/2024年12月31日」
ibarakinews.jp茨城県内のサケ捕獲数は1985年は47,692匹、2019年は5,258匹、2023年は120匹、そして2024年は26匹とのこと。サケの太平洋側の分布南限は茨城県です。
岩手県のサケのニュース。「岩手 NEWS WEB 県内の秋サケ漁 前年同時期比で過去最低の昨年度を下回る/NHK 岩手県のニュース/2024年12月10日」
www3.nhk.or.jp岩手県のサケの捕獲数は、1996年が73,500トン、2023年同じ時期で71.7トン、今年は63トンとのこと。
宮城県気仙沼市のサケのニュース。「気仙沼 秋サケ不漁 漁業の現場は /NHK仙台/2024年12月2日」
www.nhk.or.jpグラフが衝撃的です。2013年の465,648匹が2023年には1,202匹。激減しています。
新潟県内のサケのニュース。「鮭は幻の魚に…?「鮭の町」新潟県村上市がピンチ!捕獲数が激減、全国的不漁で稚魚確保も難しく/新潟日報/2024年12月24日」
www.niigata-nippo.co.jp2015年度は46万9千匹、2023年度は5万5千匹、2024年は11月末時点で2万8500匹で前年同期比37%減とのこと。
ちなみに環境省レッドデータブックの絶滅危惧IA類の選定基準2では「過去10年間~中略~80%以上の減少があったと推定され、その原因がなくなっていない」とあるので、本州の大部分のサケはそれをはるかに上回る減少率ですから、絶滅危惧IA類に選定して全力で保全するレベルです。
生物多様性が壊れてサケが減っているわけなので、当然他の野生生物も減っています。例えば霞ヶ浦のワカサギのニュース。「霞ヶ浦のワカサギ漁 出荷量わずか42キロ 過去最悪の不漁に/NHK 茨城県のニュース/2024年12月16日」
www3.nhk.or.jp霞ヶ浦のワカサギは2019年122トン→2020年34トン→2021年19トン→2022年9トン→2023年0.8トン→2024年今のところ0.04トン、とのこと。ここは在来集団なので生物多様性保全上の問題も大きいのです(太平洋側の南限個体群)。高水温が問題というのであれば、流入河川や周辺湿地の再生による湧水の再生が重要と思います。例えばこの記事によると「昔、帆曳き船の漁師だった古老の話では、霞ケ浦の湖底には地下水の湧出口が何カ所もあり、潜ると冷たい水が噴出していた」「現在ではその位置を確認することはできません」とあり、かつて豊富な冷たい湧水があったことがうかがわれます。
サケもワカサギもですが、地球温暖化が原因、というなら、陸域でなるべくコンクリートを使わないとか湧水を増やすとか沿岸域のエコトーンを再生するとか街路樹を増やすとか、やるべきことがあるはずです。放流しても増えないのに放流しかしないのなら、科学的に考えて、絶滅します。それでもサケが絶滅なんて、と思う人もいるかもしれませんが、佐賀県は絶滅の恐れのある地域個体群、福岡県は野生絶滅、山口県は絶滅危惧IA類として選定されています。つまり分布西限域ではほぼ絶滅しました。だから放流しても増えないのに放流しかしないなら絶滅する可能性があります。
農林水産省として、例えば水路改修の方針を変えるとか休耕地を湿地帯化するとか、管轄内でできることをしていないわけですから、温暖化で仕方ないなーと言ってるだけなのは無責任と私は思っています。希少野生生物の保全と言う視点から、なりふり構わず、国交省や環境省とも協働していくべきでしょう。東北地方でいえば、マルコガタノゲンゴロウやゼニタナゴの減少は、サケの減少にもつながっています。希少な野生生物が増えるような湿地帯が再生すれば、サケの生息状況が改善する可能性が高いと考えられます。
サケもワカサギも非常に大事な日本の食文化です。その根本である材料、生物多様性の恵みがなくなることに、どうしてこんなにこの国は無頓着なのでしょうね。絶滅していないのであれば、環境が再生できれば、増えるはずです。日本の文化を守るために環境を再生する努力をしていくことに、合意形成ができないものでしょうか。