湿地帯中毒

湿地帯中毒患者(末期)の日記です。

論文

宮田真也(2019)日本の第四紀淡水魚類化石研究の現状.化石,105:9-20.(LINK

第四紀(約260万年前から現在)という、「わりと最近の」淡水魚類化石研究の現状をまとめた総説です。淡水魚類の生物地理学が好きな人、かつての湿地帯の状況を妄想するのが好きな人にはたまらない内容です。リンク先からPDFをダウンロードできます。図も多く、表もわかりやすく、おすすめです。

化石ではクルタ―とかクセノキプリスとか、ほいほい出てくるわけですが、この総説を読んでわかる通り、実は縄文時代までいたわけですね。これらは広大な湿地帯を生息地にする淡水魚で、すなわち稲作によっていかに湿地帯が破壊されてきたか、ということも想像できます。ちなみにこの仲間で日本列島に生き残っているのはワタカ一種のみです。

ドジョウとかゲンゴロウとか、水田の生き物は人工環境の生物だから保全する意味があるのか、と言われることがあるのですが、実はこれらの生き物はこうした大湿地帯に生きていた末裔で、なんとか水田地帯で命をつないできたということですから、当然保全する意味はあります。かつての日本列島の自然環境がどうだったのか、ということを考える上でこうした化石の研究は重要であるわけですが、こうした研究の知識があると、現在の生物多様性保全する意義や義務も、現代の人類として考えたくなってしまうと思います。

f:id:OIKAWAMARU:20191106174758j:plain

ちなみにクセノキプリスはこんな魚です。たぶんXenocypris argenteaポスドク時代に浙江省での調査に参加した時に出会った個体。えもいわれぬ大陸の雰囲気を感じます。

日記

諸々の禁断症状が限界に達したので8年ぶりに秘密ポイントの視察に向かいました。f:id:OIKAWAMARU:20191103213003j:plain

まだ絶滅していませんでした!大きいゲンゴロウ!。ちなみに隣はコガタノゲンゴロウです。コガタノ君が小型の・・と名付けられた理由はここにあります。赤子のようです。それにしてもゲンゴロウのこの、ああ・・この力強さ、臭さ、噛まれた時の痛さ・・最高・・・

f:id:OIKAWAMARU:20191103213004j:plain

ガムシ、ゲンゴロウ、コガタノゲンゴロウコオイムシ。大きい水生昆虫はやはり良いものです。いつまでも絶滅しないで欲しいです。もっと増えるためには湿地帯の再生を進めないといけません。

しかしこの秘密ポイントも8年前にはなかった外来アゾラが大繁茂していてちょっと雰囲気が変わっていて、到着時はちょっと焦りました。あとコガタノゲンゴロウが増えすぎているようにも感じます。以前も採れましたが、これほどではなかったはず。外来アゾラをばらまかないよう、流れ込みで入念に網と胴長を洗って帰りました。駆除した方が良いのかどうなのか。でもちょっと何かしたくらいではもはや。

次の8年間もゲンゴロウには居続けて欲しいのですが・・。最近の身近な湿地帯には心配の種が尽きません。

f:id:OIKAWAMARU:20191103213433j:plain

ちなみにコガタノゲンゴロウは最近九州では爆発的に増加していて、小型のと言っても十分に大きいので(体長28mm前後)、ゲンゴロウでは?という問い合わせがしばしばあります。本物のゲンゴロウは体長40mm前後とコガタノゲンゴロウより圧倒的に大きいので、大きさだけでも間違うことはありません。サイズに加えて確実なのは腹側の色で、コガタノゲンゴロウは黒~暗赤色一色ですが、ゲンゴロウは上の写真のように肌色~黄褐色で各節に暗色の模様があります。迷ったらサイズを計って、腹側の色彩を確認すると良いでしょう。

論文

Tominaga, K., Nagata, N., Kitamura, J., Watanabe, K., Sota, T. (2019) Phylogeography of the bitterling Tanakia lanceolata (Teleostei: Cyprinidae) in Japan inferred from mitochondrial cytochrome b gene sequences. Ichthyological Research: online first(LINK

我らがヤリタナゴの網羅的な分子系統地理論文です。こちらに著者の富永さん所属機関によるプレスリリースも出ています(リンク)。

ヤリタナゴはコイ科の純淡水魚ですが、朝鮮半島の一部と本州、四国、九州の広域に自然分布し、カマツカと同様に純淡水魚としては非常に広い自然分布域をもっている珍しい分布様式をもつ種です。本論文では日本列島の40地点から得られた442個体のヤリタナゴについて、ミトコンドリアDNAのcytb領域の特徴から、その集団構造を調べたという内容です。やっていることはわかりやすいですが、さすがに広域分布種だけあって、非常に興奮度の高いデータが示されています。私の心に響いたポイントを以下に示します。

100万年規模で分化した7つの遺伝的集団・・やはり、というべきでしょうか、ヤリタナゴについても当然、地域によってその遺伝的特徴は大きく異なることが明らかになりました。大まかには3つ、も少し細かく見ると7つ、(山陰)+(九州北西+九州南西)+(東北日本海+(東海+(北陸+近畿瀬戸内)))という形になっています。

山陰集団がもっとも独特・・けっこう驚きですが、山陰地方にはサンインコガタスジシマドジョウやミナミアカヒレタビラ(北陸までいますが)などの固有の淡水魚類が分布しており、ヤリタナゴに古い系統が残っていることもありえなくはないのですが、こうして示されると感動です。山陰のヤリタナゴも大事にしましょう。

本州の東西での遺伝的分化が比較的小さい・・移動能力の低い純淡水魚類では中部山岳地帯が障壁となってここより東に古い系統が、西に新しい系統が分布するものがあります(カマツカ属、シマドジョウ属、ギギ属など)。ところがヤリタナゴでは差異はあるものの一般的に考えられるほどのものではありませんでした。これは本種にある程度の塩分耐性があり、比較的近年に沿岸沿いに北に分布を広げたことを示していると考察されています。本種は汽水域にも生息するという知見、日本海が低塩分の時代があったという知見、そして東日本において本種は日本海側のみに分布し太平洋側に分布しないという事実、からもこれらは裏付けられます。

関東地方固有集団がみつからなかった・・既存文献を見る限り関東地方にもともとヤリタナゴがいたことはほぼ確実と、私も考えていますが今回固有の遺伝的集団はみつかりませんでした。もちろん今でも関東地方にヤリタナゴはいますが、それはすべて東海あるいは近畿由来の外来集団でした。すでに絶滅してしまっているとしたらとても残念です。

我らが九州には3集団・・九州では日本海側に九州北西集団、有明海側と瀬戸内側の一部に九州南西集団、瀬戸内側の一部に近畿瀬戸内集団が分布する形になっています。このうち九州北西集団と南西集団は本州産とは大きく異なる独自の集団でこれもまた保全上重要な集団であることが明らかです。もともと九州産ヤリタナゴは口髭の長さや背鰭条数に本州産との差異があることが知られていましたが、遺伝的にも裏付けられたと言えましょう。ところで気になるのが瀬戸内側に2系統(九州南西集団と近畿瀬戸内集団)が出ているところですが、ここは本来は近畿瀬戸内集団のみが分布していたのではないかと個人的には考えています。色々な情報から、また他の湿地帯生物の分布状況から、九州瀬戸内側の九州南西部集団の分布は人為的なものによると疑っています。

さて、ということでヤリタナゴには非常に大事な100万年レベルで分化した地域集団が残存する一方で、深刻な遺伝的攪乱の実情があることも明らかになりました。とはいえ、未来に伝え守るべき地域個体群はまだ各地にのこっています。あきらめるのはまだ早いのです。この人為的な遺伝的攪乱を招いた大きな原因は、おそらく遊漁目的のヘラブナや水産増殖目的のアユの種苗放流に混入したものと思うのですが、近年では釣り目的のタナゴ類の愛好家による小規模な放流がかなりの問題行為で、水系レベルでは取り返しのつかない事態になっている場所もあります。各地の遺伝的集団は、地域の自然遺産です。そして、自己中心的な考えなしの生物の放流はすべて環境破壊です。そうしたことをぜひ、多くの方に知って欲しいと思います。

f:id:OIKAWAMARU:20191029102152j:plain

ということで九州南西集団の巨大ヤリタナゴです。婚姻色はまだまだ薄いです。幼少時から淡水魚愛好家でありましたが、図鑑など見ていてヤリタナゴって地味だな~などと思っていたのですが不謹慎でした。九州に来て初めてその繁殖期MAX巨大雄個体を見た時にその衝撃はたいへんなものでした。ありえない色、迫力、他のタナゴにはない独特の魅力を放っていました。そして各地のヤリタナゴにはそれぞれ、異なる色彩、形があることを知りました。無秩序な放流でそれらを破壊してはいけません。ヤリタナゴはどれも同じではないのです。各地のヤリタナゴを大事にしましょう。よろしくお願いします。

(※2019年10月31日追記 解析地点・個体数に誤りがあったので修正しました。加えてグループ分けについても少し修正しました。)

日記

f:id:OIKAWAMARU:20191023170251j:plain

外来種としてのアメリカザリガニの侵略性について、最近読んだ関連論文のメモと感想。

 

Anastacio, P.M., Parente, V.S., Correia, A.M. (2005) Crayfish effects on seeds and seedlings: identification and quantification of damage. Freshwater Biology, 50: 697-704.(LINK

アメリカザリガニによる水生動植物の捕食と稲への食害を報告した論文。

 

Angeler, D.G., Sanchez-Carrillo, S., Garcia, G., Alvarez-Cobelas, M. (2001) The influence of Procambarus clarkii (Cambaridae, Decapoda) on water quality and sediment
characteristics in a Spanish floodplain wetland. Hydrobiologia, 464: 89-98.(LINK

アメリカザリガニ侵入による濁りの増加を報告した論文。

 

Barbaresi, S., Tricarico, E., Gherardi, F. (2004) Factors inducing the intense burrowing
activity of the red-swamp crayfish, Procambarus clarkii, an invasive species. Die
Naturwissenschaften, 91: 342-345.(LINK

アメリカザリガニの巣穴掘削による土手の崩壊を報告した論文。

 

林 紀男・稲森隆平(2010)コイによるアメリカザリガニ捕食が沈水植物群落に及ぼす影響.水草研究会誌,94:28-34.

※コイ(これもここでは外来種)がいないところではアメリカザリガニが増え、沈水植物群落に悪影響を及ぼすけれども、コイがいるとアメリカザリガニを食べるので植物に対する悪影響が軽減するらしいことを報告した論文。

 

Nishijima, S., Nishikawa, C.,  Miyashita, T. (2017) Habitat modification by invasive crayfish can facilitate its growth through enhanced food accessibility. BMC Ecology, 37: DOI 10.1186/s12898-017-0147-7(LINK)(著者らによる解説

アメリカザリガニによる水生植物の切断行動が、水生植物を隠れ家とする水生昆虫類の捕獲効率を高めることにつながり、ザリガニ自身の成長が促進されることを示した論文。

 

Bucciarelli,G.M., Suh, D., Lamb, A.D., Roberts, D., Sharpton, D., Shaffer, H.B., Fisher, R.N., Kats, L.B. (2018) Assessing effects of non‐native crayfish on mosquito survival. Conservation Biology, 33: 122–131.(LINK)(記事

アメリカザリガニによるヤゴの捕食が、ヤゴそのものの減少とヤゴの行動特性の変化を引き起こし、蚊の個体数増加を引き起こすことを報告した論文。

 

<日本語の総説>

苅部治紀・西原昇吾(2011)アメリカザリガニによる生態系への影響とその駆除手法.川井唯史・中田和義(編).エビ・カニ・ザリガニ‐淡水甲殻類保全と生物学.pp. 315-328. 生物研究社,東京.(リンク
アメリカザリガニの生態系影響、国内における生態系破壊事例、対策事例をまとめた総説。(← 書籍の中の一節ですが非常に充実していて、かつ読みやすいのでアメリカザリガニの生態系影響や対策方針を理解する上でおすすめです。本そのものも専門的ですがどの節も面白いです。)

 

アメリカザリガニによる生態系への悪影響を報告した論文は、この他にもたくさんあるようです。ちなみにアメリカザリガニは日本の侵略的外来種ワースト100(日本生態学会,2002)、環境省農水省の定める「生態系被害防止外来種リスト(リンク)」で緊急対策外来種に選定されています。ちなみに「福岡県侵略的外来種リスト2018(リンク)」でも重点対策外来種に選定されています。

日本ではかなり身近な外来湿地帯生物であるアメリカザリガニですが、その生態系に与える悪影響はかなり大きいことが科学的に解明されており、そうした科学的知見を受けて行政的にも対策が必要な侵略的外来種として認識されている状況にあります。そして実は私も調査地でアメリカザリガニによると思われる衝撃的な湿地帯の変貌を目の当たりしています。それが冒頭の写真なわけですが・・

f:id:OIKAWAMARU:20191023170251j:plain

この写真は左が2011年10月、右が1年後の2012年10月です。左は水草が繁茂しており、右では消滅しているのがわかるかと思います。同じ10月ですので、その違いは明白です。

このビオトープはもともと陸地であった休耕田を掘削して造成したもので、2011年3月に完成後、同年4月から3年間毎月調査を行っていました。陸地だった場所を掘ったので、当然造成直後にはアメリカザリガニはおろか、湿地帯生物は何もいません。造成したその年の6月くらいから埋土種子に由来すると思われる水草類(ミズオオバコ、イトトリゲモ、キクモ、イボクサ、コナギなど)が生じはじめ、8月以降は大繁茂して楽園となりました。写真左はそのピークの頃の様子です(白く点々としているのはミズオオバコの花です)。ここでは造成直後から色々な水生昆虫が次々と飛来してきましたが、アメリカザリガニの初確認は8月、スクミリンゴガイの初確認は9月でした。周囲は水田地帯であり、アメリカザリガニスクミリンゴガイも多く生息していたことから、降雨時などに陸上を移動してビオトープに侵入したものと推察されます。すなわち、上の写真左の10月時点では、よく繁茂した水草の中にアメリカザリガニスクミリンゴガイがいるという状況であったということです。さて、その翌年は春先からずっとアメリカザリガニスクミリンゴガイも確認されていたわけですが、一方で、昨年にあれほど繁茂した水草類は一切出現しませんでした。そのまま秋を迎えたのが、上の写真右の10月の風景ということになります。この劇的な変化は本当にアメリカザリガニが原因なのか?ということを考察してみたいと思います。

実は2011年に繁茂した水草の一部(ミズオオバコ、キクモ)は持ち帰って栽培していたのですが、翌年以降も普通に発芽し繁茂しました。すなわち2年目に発芽しないという訳ではないということです。また、このビオトープの上流には水田はなく、除草剤も使用された形跡はありません。すなわち薬品が原因ではないということです。また、偶然2013年は水不足で5月頃に干上がり、サギ類やアライグマなどにアメリカザリガニスクミリンゴガイが食べられてしまい一時的にいなくなりました。すると水が戻った同年7月には水草類が一時的に繁茂しました(が、その後すぐに消えました)。すなわち、アメリカザリガニスクミリンゴガイがいない状況では、やはり発芽して成長するということです。

先に紹介した文献からは、アメリカザリガニ水草を捕食すること、捕食しない場合も切断することが明らかにされています。これらの事実を統合すると、水草類が成長しきった後にアメリカザリガニが侵入しても大きな影響を与えないが、水草類の発芽時期(ここでは6月頃)にアメリカザリガニがいる場合には水草群落は破壊されてしまう、と考えられます。私がみたこの事例も、アメリカザリガニによる生態系破壊の一例なのでしょう。非常に衝撃的な経験でした。何人かの水生昆虫の研究者から、アメリカザリガニが侵入して茶色く濁った水を「ザリ色の水」と呼ぶ、というのを聞いたことがあります。この写真右の水がまさに、ザリ色の水なのでしょう。

 

さて、ここで少し気になるのはじゃあこれまでアメリカザリガニは何で問題にならなかったのか、ということです。外来種としてのアメリカザリガニは「古い」です。アメリカザリガニは国内では1927年に神奈川県に持ち込まれたのが最初とされています。九州ではおそらく福岡県がもっとも古く、1934年に柳川市に持ち込まれたという記録があります。いくつかの文献記録から、九州の平野部では1950年代には広く分布するようになったものと思われます。したがって、すでに広く定着して60年以上が経過しており、そんなアメリカザリガニが、近年になって生態系に対する高い侵略性があるということが指摘されるようになったということです。なんで今更?という疑問が生じます。

この理由について明確に説明したものは不勉強ながらみつけられませんでしたが、福岡県内の状況をみると、平野部の水草類や水生甲虫類は1950年頃から1980年頃に多くの種が絶滅やそれに近い状態になっています。もちろん圃場整備や除草剤、農薬等のピークとも一致するため、はっきりしたことはわかりませんが、同時にアメリカザリガニによる食害も影響していた可能性があります。また、実はアメリカザリガニの分布拡大は現在進行形で、東北地方や北陸地方には未侵入の地域があることが知られています。苅部・西原(2011)によれば、福井県中池見湿地に侵入したのが1990年代後半、石川県加賀市のある池に侵入したのが2000年頃、同県金沢市のある池に侵入したのが2007年頃などの事例が報告されています。近年の急速な分布拡大には、気候変化や捕食者となる在来種の減少なども関係しているかもしれません。いずれにしろ、90年前から少しずつ各地の湿地帯の生態系を破壊しつつ分布拡大し、最後に残った楽園に侵入しつつあることでようやくその問題が顕在化した、というのが現在の状況ではないかと考えられます。

これほどの悪影響があることが判明した今、また生物多様性保全が社会的課題となっている状況で、外来種アメリカザリガニと今後どうつきあっていくのか、というのは大きな課題といえます。根絶は目指すべきものであるものの、現実的には色々な意味で困難でしょう。野外については未侵入地への侵入定着を徹底的に防止するとともに、生物多様性保全上重要な地域に入ってしまった場合に徹底的に駆除をするという形が現実的です。一方でアメリカザリガニにはいくつもの飼育品種があり、鑑賞生物としても親しまれています。子供向け飼育本にも普通に登場している存在です。したがって、特定外来生物等に指定して飼育そのものを規制するのはなかなか難しいように思います。とは言え、外来種としてのその高い侵略性は十分に周知されるべきですし、何らかの法的規制も視野にいれつつ、その取扱い方については今後優先的に議論されるべきものであることは間違いありません。

f:id:OIKAWAMARU:20191023164818j:plain

ところで時々勘違いされていますが、日本列島に自然分布するのは二ホンザリガニただ一種で、その自然分布域は北海道と東北地方北部の一部のみです(以前に紹介した系統地理論文はこちら)。すなわち本州の大部分、四国、九州、南西諸島にいる身近なザリガニは、すべて外来種アメリカザリガニです(関東地方の一部に国内外来種として二ホンザリガニが、北海道から北陸地方にかけて数か所で同じく北米原産のウチダザリガニが定着していますが、普通に出会うことは少ないでしょう)。アメリカザリガニは私も幼少時に熱心に釣りを楽しんでいた湿地帯生物なので愛着はありますし、大きな真っ赤な個体を採ると喜んでしまいますが、一方で、日本各地の湿地帯を回って、アメリカザリガニがいない湿地帯の素晴らしさや、侵入後の壊滅的な状況も知ってしまいました。日本列島の湿地帯の保全と再生にあたっては、もっとも対策が必要な外来種の一つであると思っています。

 

追記

f:id:OIKAWAMARU:20191026094056j:plain

右から1957年、1983年、2018年に出発された子供向けの生き物飼い方本。すべての表紙にアメリカザリガニが鎮座しています。外来種としての生態系影響は甚大ですが、効果的な対策を進める上で、アメリカザリガニがこれまでずっとこういう存在であったという事実はよく考えないといけないわけです。

日記

f:id:OIKAWAMARU:20191025153506j:plain

先月調査に行った時に出会った素晴らしい湿地帯の風景です。

ところでインターネット上に出す環境写真にはいくつか注意する点があります。なぜかというと、そこに希少種が多くいる場合、その生息地が悪質な愛好家や業者に特定されることで、乱獲がなされるおそれがあるからです。希少種関係の仕事においても、生息地の情報というのは最高レベルの守秘項目です。

したがって希少種の生息地が特定されるような環境写真をインターネット上に出さないよう注意しないといけません。まずそもそも、乱獲の恐れのある超希少種の生息地の写真は基本的に出さない、ということがあります。それから次に、どういう写真が良いかというと、山の稜線が写らないこと、鉄塔・橋梁・ガードレール・護岸が写らないこと、河川名や市町村レベルでの地名を書かないこと、なんかが基本線になります。自分が捕獲者だったら何を手掛かりにするかということを考えると良いです。上記の写真は先に記した重要な情報が何も入っていないので、行ったことがある人を除いては場所の特定が不可能です(※偶然みつけてしまうということはあるかもしれません。ちなみにこの湿地帯にも超希少種はいません)。上記の写真は、湿地帯経験の多い人なら、「確かに良いけど、わりと各地にある良い湿地帯」、と感じるのではないでしょうか。また、ツイッターなどでは設定によっては位置情報が一緒にツイートされることがありますし、デジカメによっては緯度経度情報がファイル内に含まれて保存されるので、環境写真をインターネット上に放流する際には、このあたりのチェックも必要です。あとはその場所は秘密にしていても、そこに行くまでの移動経路なんかを明らかにしていると、そうした情報もヒントになるかもしれません。ということでインターネット上での環境写真の公開については、上記の点に気を付けることで、ほぼ問題はないと思われます。

と、ここまで読んで、そんなに面倒ならそもそも環境写真をインターネット上に出すべきではないのでは?という意見もまた、あるかと思います。でも絶対に出さないというのは愛好家としては息苦しいし、何より現実的ではありません。出すなら特定されない写真を、と言うのが現実的だと私は思っています。それから、私が素晴らしい湿地帯の風景を出す理由として、特に「これが良い湿地帯だ」というのを多くの人に知ってもらいたいという思いもあります。世の中の大多数の人は湿地帯に良いも悪いも感じないそうです。これは良い湿地帯だ、ということがわかる人が増えれば、良い湿地帯が消滅の危機にある際に、これを失ってはいけないのではないか、ということに気付いて、何らかの保全アクションにつながるかもしれません。そうして良い湿地帯がこの世から消滅することを少しでも防げるのではないかと思っています。そういう意味で「素晴らしい湿地帯の風景」をインターネット上に出すことに保全上の意義はあると、考えています。

インターネット上での環境写真の公開においてはもう一つ大きな課題があります。それは観察会等の活動風景をインターネット上で報告する時どうするか、ということです。写真以前に、どこどこでします、と具体的な場所まで書かざるを得ないことも多く、悩ましいところです。私も年間10~20回ほど観察会講師業をしていますが、相談されると悩みます。気を付けている点としては、まず、超希少な種が採れた、ということは書かないということです。インターネット上には写真や情報としては無難な種を出しておくのが良いだろうと言っています。また、自分が講師で行った時に超希少な種が採れてしまった時には、参加者に対してこれこれこういう理由でインターネット上には出さないでね、と解説する場合もあります。それでも不特定多数の方が参加する観察会では、限界はあります。別の考え方としては、そもそも観察会を超希少種がいるところでは開催しないということ、あるいは法令で侵入や採集が禁止されているところで特別に許可をとって開催すること、などが考えられます。このあたりを頭にいれておくことで、観察会の様子をインターネット上で不用意に公開したことを端緒とする希少種乱獲問題は、大部分が回避できるものと思います。

まあ究極的には、乱獲や密猟をするような悪い人がいなくなれば良いのにね~というところなんですが、それは不可能なんだなということが年を取ってきて、わかってきました。残念なことです。

f:id:OIKAWAMARU:20191024215154j:plain

ということで最後にもう一枚、素晴らしい湿地帯の風景です。こういう湿地帯が素晴らしいのです。

 

<付録>

悪質な乱獲者による被害を防ぐためのインターネット上に環境写真を放流する上でのチェックリスト

□ 山の稜線が写っていないか

□ 鉄塔・橋梁・ガードレール・珍しい護岸などが写っていないか

□ 市町村名や詳細な河川名を出していないか

□ ツイッターなどで位置情報が投稿される設定になっていないか

□ 写真に緯度経度データが含まれていないか

□ 途中経路の情報などは出してしまっていないか

□ その場所に乱獲されるおそれのある超希少種が生息していないか

※追記。超希少種のそのものの写真公開は、場所さえ特定されなければ特に問題ないと思います。その種がその地域にいる、ということは図鑑等文献上は明らかになっている情報なので。周知の情報か、そうでないかも、一つの判断基準になります。

 

日記

実は先週に奄美大島に調査に行っていたのですが、そこで島バナナをみつけたのでお土産に買いました。

f:id:OIKAWAMARU:20191023214139j:plain

これが6日前、買ってきた翌日です。緑色です。まだ食べられません。島バナナとは南西諸島で栽培されているもので、普通のバナナより小さ目です。品種も実は色々とあるようで、お店のおばちゃんには「小笠原」や「ブラジル」というのがあると聞きました。「小笠原」の方が昔からある品種で、「ブラジル」は最近のものだそうです。以前に「小笠原」が美味しかったので、今回も「小笠原」を購入しました。しかし緑色過ぎて本当に黄色くなるのか不安です。
f:id:OIKAWAMARU:20191023214142j:plain

そしてこちらが昨日の様子。なんといきなり1つがかなり黄色くなってきていました。これは期待できます。実は5日間まったく変化がなかったので、本当に黄色くなるのか不安であったのでした。そして・・

 

 

 

f:id:OIKAWAMARU:20191023214143j:plain

そして今日です!!驚くべきことにすべてが一気に黄色くなっていました!!とはいえ根本が緑色のものもまだありますので、一番はじめに黄色くなった下段の中から、柔らか目のものをもいでみます。

f:id:OIKAWAMARU:20191023214155j:plain

おいしそうです。で、おいしかったです。この「小笠原」は酸味があってさわやかな甘さが特徴です。この味です。大変満足しました。まだたくさんあるのでたくさん食べられそうですが、ポン氏もバナナが好きなので、全部食べられてしまわないよう注意が必要です。

ところで、こうした農作物の「地域品種」というのは生物多様性の恵みの一つして扱われます。バナナと言えば先日に、バナナの病気である新パナマ病が世界中に広がりついに南米・コロンビアにも上陸し、現在生産の主流となっている「キャベンディッシュ」という品種が絶滅の危機にあるというニュースが出ていました(リンク)。ご存じのようにメジャーな食用バナナは3倍体で種子ができません。すなわちクローンとして株分けで増やしていくわけですが、これは遺伝的に均質な集団です。したがって、ひとたび特定の遺伝的集団に強烈に効く病気が蔓延すると、抵抗力なく瞬く間に全滅するリスクがあるのです。実はバナナの全滅はこれが初めてではなく、およそ60年前にも「グロスミッチェル」という同様にクローンで増やし世界中で栽培されていた品種が、パナマ病により壊滅しています(ただし絶滅はせずかろうじて栽培しているところもあるそうです)。その後に主流になったのが今の「キャベンディッシュ」というわけで、そして今はバナナ2回目の危機ということになります。

さて、こうした時に、遺伝的に異なる地域品種があれば、それらに基づいて流行している病気に感染しない新しい品種をつくることができますし、あるいは今ならその塩基配列の特徴を解析することで、遺伝子組み換えなどにより病気に強い性質を導入することも可能かもしれません。すなわち農作物においても、品種の多様性、すなわち遺伝的な多様性を保全するというのは重要なのです。もし世界中でたった一つだけのバナナの品種しかなくなってしまったら、何らかの病気が発生した場合に我々はなすすべなく一切のバナナを食べられなくなってしまう可能性もあるのです。

と、いうことで古くから南西諸島で栽培されてきた「島バナナ」も、人類共有の貴重な遺伝子資源として、末永く大事にしていく必要があるでしょう。奄美大島では秋に出ているものだそうです。確かに春に行った時はありませんでした。今の時期、もし南西諸島に行かれたらぜひ探してみてください。

日記

昨日は某所で観察会&勉強会。
f:id:OIKAWAMARU:20191021191454j:plain

 フナが採れました。九州のフナは最高に難しいのですが、この黄金色や背鰭の特徴から、これはオオキンブナではないかと思いました。いかがでしょうか?

f:id:OIKAWAMARU:20191021192401j:plain

話は変わって、先日紹介したマミズクラゲですが(リンク)、ついにすべて死んでしまいました。ミジンコ的なものを食べるという記述もあったので、少し外の容器から水を汲んできて入れたりしていましたが、食べている様子はよくわかりませんでした。飼育個体は日々縮んでいき、どんどん小さくなっていきました。先週の気温が下がった日に水槽Aは全滅、そして同じく水温が下がった別の日に水槽Bも全滅しました。ということで1カ月ほど生きていたことになりますが、日々縮んでいくこと、低水温で死亡するらしいことなどの知見が得られました。

ところで写真はそんな死んだマミズクラゲに群がっている何かです。当初ワムシ類かなと思いましたが、これはカイミジンコの仲間の、ゴミマルカイミジンコCypridopsis viduaではないかと何人かの方に教えていただきました。どうもありがとうございます。明らかにマミズクラゲの死体を食べているようで、触れるとワーと逃げて行きますが、しばらくするとまた集まっています。シマシマ模様がかわいいです。世の中にはまだまだ知らない湿地帯生物が身近にたくさんいますね。

参考文献

田中隼人・小鳥居 英・横澤 賢・若林楓芽・木本和代・佐野恵子(2015)富士山西南麓の淡水環境に生息するカイミジンコ類(甲殻類)の分布と産出報告.タクサ日本動物分類学会誌,38:26-41.(リンク