オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Oijen, M. J. P., Suzuki, T., Chen, I. S. (2011) On the earliest published species of Rhinogobius. With a redescription of Gobius brunneus Temminck and Schlegel, 1845. Journal of the National Taiwan Museum, 64: 1-17.
ヨシノボリ種群の分類についに動きが!シーボルトのコレクションから記載されたbrunneusというヨシノボリは、今で言うところの何に該当するのか、という困難な分類学的問題に立ち向かった素晴らしい論文です。気になるそのお方は、なんとクロヨシノボリでした。ということで今後はRhinogobius brunneusといえばクロヨシノボリということになります。
模式標本はシーボルトコレクションということですので、採集地はお馴染みのNagasakiです。この頃の記載論文では現在重視される分類形質を記載していなかったりしますし、肝心の模式標本は干物を水で戻したような状態ですので、後から似たような複数種が存在していたことが気づかれたような種については、はじめに記載された種がそもそもどれにあたるのか、を調べることが非常に困難です。
著者らは長崎湾流入河川からヨシノボリ類のサンプリングを行い、シマヨシノボリ、トウヨシノボリ、クロヨシノボリの3種を得ました。そして、これらと模式標本の形態的特長を比較しました。その結果、胸鰭条数や頭部感覚孔などの形態的特長に注目して、模式標本はクロヨシノボリに合致すると結論づけています。およそ180年前に採集された体長46ミリのヨシノボリ類の(干物を水で戻したような)模式標本から、この形態的差異を見出して、客観的に学名を決定できたということは素晴らしいことです。
こういう分野の研究はやはりとても重要です。これを皮切りにおそらく他のヨシノボリ類についても学名が付されていくのではないかと楽しみです。

福岡県産クロヨシノボリRhinogobius brunneus。名前がついてよかったね。