オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Sato, T., Watanabe, K., Kanaiwa, M., Niizuma, Y., Harada, Y., Lafferty, K. D. (2011) Nematomorph parasites drive energy flow through a riparian ecosystem. Ecology, 92: 201-207.
淡水魚関係でとても興味深い論文。といっても内容の紹介文はこちらがとてもわかりやすく詳しいので、こちらを見たほうがよろしいかと→ こちら
腹に成熟したハリガネムシが詰まっているカマキリの腹先を水につけると、腹の中のハリガネムシがチュルッと出てくるのをご存知の方も多いですよね。ハリガネムシ本体はチュルッと出て行って、そのまま水中で産卵するわけです。
この研究では、ハリガネムシが宿主であるカマドウマなどのバッタ類を操って自らの産卵場所である水域へと誘導し入水させるという、という生態に注目し(この時点ですでに面白いんですけど)、なんとその入水させられたあわれな宿主が、渓流魚であるヤマトイワナにとって重要な餌資源になっている、ということを証明しています。
渓流魚類が川に落下した陸上昆虫をよく食べていることは知られているところですが、その陸上昆虫類が川に落下する仕組み、については偶然落ちる、という理由以外はあまり注目されていなかったと思います。実は場所によっては川に落下する陸上昆虫類は寄生虫に操作されて、偶然ではなく半ば必然的に川に落下していたわけです。ハリガネムシ類は主に秋に産卵するわけで、その時期に宿主として大量に落下してくるカマドウマなどの昆虫類というのは、イワナなどの渓流魚類にとっては産卵期の重要な栄養源になることでしょう。
森と川の生態系、そしてそこに棲む生物が密接につながっているということを示すとても面白い研究です。カマドウマにハリガネムシを足すとイワナが完成するとは。