オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Kano, Y., Nishida, S., Nakajima, J. (2012) Waterfalls drive parallel evolution in a freshwater goby. Ecology and Evolution, DOI: 10.1002/ece3.295.
共著でかかわっていた論文が出ました。オープンアクセスなのでぜひご覧下さい(リンク)。1st著者の圧倒的な(色々な意味での)戦闘力をヒシヒシと感じました。とてもこの域には行けない気がする・・
タイトルの通り、西表島にいるキバラヨシノボリと呼ばれるヨシノボリはそれぞれ滝の上で別個に平行進化したのではないか、という論文です。異所的同方向進化といいましょうか、すなわちはじめにキバラヨシノボリという種が出来て、それが分布を広げていったのではなく、クロヨシノボリという種が滝によって陸封される過程で、それぞれの滝の上で別個に、皆似たような見た目のキバラヨシノボリとなってしまったのではないか、という話です。特にFig.5の滝の高さとキバラ-クロの遺伝的距離の関係は、はじめに見せてもらった時に驚愕しました。
さて、そこは置いておいて、何故滝の上で別個に同じ種が進化するなどということが起こりうるのか、考察でいくつか可能性を述べています。私個人としては薄暗く魚類の捕食者がいない渓流において、効果的に雌雄が出会うために都合が良い色彩というのがいくつかあって、そのうち潜在的に短期で発現できる色彩パターンに選択肢はあまりなく、結果的にすべて同じ色彩パターンになっていったから、というのが可能性として一番大きいのではないかと考えています。
また、この結果は遺伝的系統と形態的分類の関係について、一つの大きな方向性を与えうるのではないかと考えています。すなわち、遺伝的差異と形態的差異が必ずしもリンクしておらず、遺伝的にだいぶ違っていても、見た目が同じなら同種として認識され交雑が起こりうるような生物では、遺伝的差異はそもそもあまり問題でなく、見た目がすべてであるので、ある程度系統を無視した形の、見た目でまとめた分類単位(種とか亜種)が存在しうるのではないか、存在してもいいのではないか、ということです。猫も杓子も遺伝的に違うから別種・別亜種(でも形態は見ない)というのは問題で、分類はやはり形態ありきで、遺伝的系統はある程度無視しても良い、という場合もありうるんではないでしょうか。もちろん、系統と形態が一致していればそれに越したことはありませんが。
特にヨシノボリ類では遺伝的差異と見た目の違いが必ずしもリンクしていないようですので、いくつかの集団を用いてうまい実験デザインでお見合い実験を繰り返すと、進化的に興味深い現象を観察できると同時に、分類の仕方についても重要な知見を得られるのではないかと思います。

ということで、キバラヨシノボリの仔魚。昨年6月に西表島に行った際に撮影したもの。滝の上の淀みはきわめて不安定そうな環境で、このような仔魚がフラフラしているのは、何とも奇妙に感じます。

しかし残念ながら、西表島の滝の上に行くと、私は水生甲虫屋であります。これはいわゆるアマミミゾドロムシ系の西表島にいる種。実は故・佐藤正孝博士は博士学位論文中で八重山のこやつを別亜種として取り扱っていますが、それは非公式なもので、その後学術論文上で記載された形跡はありません。これは未記載亜種なんでしょうか。