オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

ナーフー(その9)

Iguchi, K., Yamamoto, G., Matsubara, N., Nishida, M. (2003) Morphological and genetic analysis of fish of a Carassius complex (Cyprinidae) in Lake Kasumigaura with reference to the taxonomic status of two all-female triploid morphs. Biological Journal of the Linnean Society, 79: 351-357.
その8の続きです。前回紹介した論文で言及されていた霞ヶ浦のキンブナ、ギンブナ・キンブナ中間型、ギンブナの3種(型)について、詳細な形態計測と遺伝子解析(調節領域)を行い、これらの実態に迫った論文です。
結果としてこれら3種(型)は背鰭条数と鰓耙数によってキンブナとギンブナ及び中間型の2タイプに明瞭に区別できることがわかりました。またキンブナはすべて2倍体、ギンブナと中間型はすべて3倍体であることもわかりました。しかしながら遺伝子解析の結果では、これらは3つのクレードを形成し、そのクレードは必ずしも形態とは一致せず、ギンブナのみのクレード、中間型のみのクレード、キンブナと中間型が混在したクレードとなりました。したがって、遺伝子ではキンブナと中間型が明瞭に区別できないということのようです。
考察で著者らは霞ヶ浦には少なくとも2つ以上の分類群が存在する、としており、一つは3倍体のギンブナC. auratus langsdorfii、もう一つは2倍体のキンブナC. auratus subsp.2と、ひとまず学名をあてています。そして形態と遺伝子の不一致から、”ギンブナ”の実態は複数の起源が異なる亜種間の倍数化によって生じる3倍体の魚、という特殊な分類群なのではないかと推察しています。ようするにギンブナは遺伝的な特徴や系統から明確に定義できるものではなく、「ギンブナ的な形をしていて3倍体であるものがギンブナC. auratus langsdorfiiではないか」、ということを言っているようです。
ということで、この論文ではギンブナC. auratus langsdorfiiの分類学的な位置づけについて一つの仮説を提出しており、非常に興味深いです。また、この時点ではキンブナC. auratus subsp.2も分類群として存在するということを言っている点も重要です。ナーフーその4、5、6で紹介した論文は同じ著者らがかかわっていますので、それらはこの研究の発展版ともとらえることができるでしょう。そう思って前に紹介した論文を古いものから順に読んでいくと、また新たな読み方もできると思います。
ナーフーはもう少しつづきます。(その10へ