オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

書評

遠藤公男「ニホンオオカミの最後 狼酒・狼狩り・狼祭りの発見」山と渓谷社.(リンク

岩手県を舞台に、当地でニホンオオカミがどのように滅んでいったかを、緻密な文献調査と聞き取り調査によって浮かび上がらせています。大変面白かったです。その過程で色々な文化も拾い上げて記録しており、学術的にも非常に重要な一冊であると思います。

もちろん絶滅には西洋からもたらされた伝染病、環境破壊による生息域の消失、シカやイノシシの乱獲による餌不足などの複合的な部分もありますが、これほどまでに徹底的に害獣として駆除された歴史があったとは不勉強ながら知りませんでした。少なくとも最後の最後は確実に、乱獲により絶滅させたことは間違いないのでしょう。

本書にあるように人間を食い殺した記録も多々残っており、当地で重要な産業であった馬や牛を食べるという害も大きいものであったようです。しかしそれにしても、懸賞金がかかっていたということがあったとしても、とにかくみつけたら殺す、鎌で切り殺す、棒で打ち殺す、と徹底的に殺しています。人間はすごいものだなと思います。ぬるい21世紀の日本に生きている自分には想像もつきません。例えばその頃に生物資源として保全すべきという声があったとして、自分が有識者として都会から当地を訪れたとして、どういう保全策があったろうか、ということなどを考えてしまいます。日本人と共存の道は本当になかったのでしょうか。

ところでこの本では「狼酒」というすごいものを発見して報告しています。これは本当にすごくて詳細は本を読んで欲しいのですが、この中に骨のかけらがあったことを記しています。その骨について遺伝子解析が実施され、なんとニホンオオカミの東北個体群の可能性が高いということが発表されたのでした。→(リンク

これもまたすごい話です。地道なフィールドワークの重要性がよくわかりますし、この著者がしつこく探さなかったらこの狼酒はそのまま誰にも知られずにこの世から消滅していたことでしょう。本当にすごいことです。

 

ところで日本列島から絶滅した貴重な哺乳類としてはもう一種、ニホンカワウソがいます。ということでついでに以前読んだ以下の本も紹介します。

宮本春樹「ニホンカワウソの記録 最後の生息地 四国西南より」創風社出版.(リンク

こちらの本も緻密な文献調査と聞き取り調査によって、ニホンカワウソの最後を浮かび上がらせています。ニホンカワウソニホンオオカミとは異なり、絶滅前に天然記念物に指定されています。にも関わらず絶滅してしまいました。こちらもその絶滅の原因は河川環境の悪化や水質の悪化を含む複合的なものと思われますが、その最後には漁業や養殖業に対する害獣として駆除された経緯も書かれています。この本でもうろうろしているカワウソは徹底的に殺されていることがわかります。おそらく密猟に近い形でひそかに殺されたカワウソも多かったのではないでしょうか。

この2冊は社会的課題としての生物多様性保全に興味がある方にはぜひ一読をお勧めしたいです。事実として、日本列島の誇る山の王者と川の王者が、どのような経緯で絶滅したかを知ることは、今後の日本各地での生物多様性保全の戦略を考える上でも重要なものであるでしょう。野生生物を愛し自然と共生する日本人、などというイメージは幻想であることもよくわかります。「害獣」に対して人類がどうふるまうのかという本質的な部分もよく理解できるものと思います。