オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Koizumi, I., Usio, N., Kawai, T., Azuma, N., Masuda, R. (2012) Loss of genetic diversity means loss of geological information: the endangered Japanese crayfish exhibits remarkable historical footprint. PLoS ONE, 7: e33986. doi:10.1371/journal.pone.0033986
ニホンザリガニの系統地理研究です。フリーのオンラインジャーナルなのでここからPDF版もDLできます(リンク)。また、この紹介記事(リンク)が非常にわかりやすく、私ごときが解説する必要はもはやありません。
この論文で私が面白いと思ったのは分布拡大の方向性を明瞭に示したというところです。単に遺伝的に異なる集団がこれこれこの地域に分布しているというだけ(←私のような生き物オタクかつ遺伝子分野素人がこういう論文を書こうとするとえてしてそうなる)でなく、もともとどこにあった集団がどっちの方向へどういう風に分布拡大していったのか、ということを理詰めで説明しています。そしてその中に日高山脈津軽海峡といくつかの離島が含まれていることが、生き物屋にとっての面白さをより増しています。
北海道南部と東北地方北部との共通性、日高山脈の東西での異質性は水生生物の分布様式でも過去指摘されてきたことだと思いますが、そのいくつかはこのニホンザリガニの分布拡大様式で説明できるということでしょう。
ところで余談ですが、先ほどリンクにあげた記事の「生物の遺伝的多様性(遺伝的変異)は個体群の絶滅リスクに影響するため、その保全が重要となっているが、その一方で、歴史遺産としての価値は見過ごされてきた。」という一文は素晴らしいと思いました。「遺伝的多様性は歴史遺産」というのは多くの人に訴えかけやすそうなので、今後観察会等で使わせてもらおう。特にホタル(カワニナ)放流教団の方に理解してもらいやすいかも。