オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

右利きのヘビ仮説―追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共進化 (フィールドの生物学)
右利きのヘビ仮説 追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共進化」 細 将貴(著)
昨日紹介したのと同じシリーズで、同じく一気に読めてしまったのがこちら。王道の面白生態学を実践している著者の渾身の一冊。生き物好きな方、面白い生態学が好きな方、これから研究者を目指す高校生、大学生にオススメです。あと西表島に取り憑かれた人にも。
その構成は「第1章 生き物の右と左」、「第2章 右利きのヘビ」、「第3章 西表島で調査する」、「第4章 検証・右利きのヘビ仮説」となっており、著者と並ぶもう一人(?)の主役がカタツムリ食いヘビとして有名なイワサキセダカヘビです。第1章では著者の研究テーマの根幹である生物の左右性を実例とともに詳しく解説するところから始まるので、基礎知識がなくても入りやすいです。そして、第2章からが研究の本番で、「右利きのヘビは右巻きのカタツムリしかうまく食べられない。したがってこのヘビが生息している島にはヘビから逃れるために左巻きのカタツムリが進化する」という、大胆な仮説を標本調査、野外調査、行動実験、そして論文発表という形で証明していきます。その一連の流れはとても鮮やかで感動的です。そして単なる「うまくいった話」だけではないところがこの本の魅力を高めているところで、華々しい研究の裏にある野外系研究者の悲哀をも実感できる内容になっています。
個人的には第3章において著者の生き物屋としての本領を感じました。これでもかと出てくる西表島の生き物写真は圧巻です。両生類、爬虫類だけでない多種多様な分類群の生き物の画像紹介に、生き物全般に対する半端ない愛があふれています。それと本文中に書いてあったサトウキビの枯葉がヘビに似ている、というのはたしかに、と思いました。私はただ趣味でヘビ探しをしてただけですが、さんざん騙されたのを思いだします。
なお、私は初版で購入したので初版しか読んでおりません。二版以降は内容修正・コラム追加がなされているそうなので、こんど立ち読みしてきます。

ちなみに著者のホームページがこちら↓丁寧な研究紹介がありますので深く知りたい方はこちらへ。
https://sites.google.com/site/masakihoso/
余談ですが、リンクにある「研究を続ける勇気を!」コーナーの4つの文章は熱いです。好きです。


・・さらに余談ですが、私は一回だけこの著者の方とお会いしたことがあります。2004年当時、大学の同期が西表島オオウナギの研究をしていたので、その調査手伝いとしてこの本にも出てくる琉大熱生研に宿泊していたのですが(ほとんど趣味の昆虫採集してただけ・・)、その際に生きたイワサキセダカヘビをはじめて見せてもらいました。私、ヘビ好きですがヘビ運は超絶無いので、それはもう感動しました。写真を見返すと2004年5月ということなので、この本に沿って考えるとひょっとして記念すべき一頭だったのでしょうか。細かい経緯は覚えてないのですが、一晩預かるということになって、その際に「もし糞をしたら、決してその糞は捨てないで下さい!」と言って彼が闇夜に出撃していった、というワンシーンがあったような気がします。本を読むまで忘れていましたが、なるほど、糞はこういう話だったのか、とこの本を見て気付きました。なぜ糞が重要なのかはぜひ買って読んでみて下さい。