オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

書評

「斉藤憲治・内山りゅう(2015)くらべてわかる淡水魚.山と渓谷社.」くらべてわかる 淡水魚

注文していた図鑑が届きました。楽しみにしていたものですが、内容は期待どおりで良かったです。特に入門用と割り切って種数をざっくり落として本州〜九州の身近な魚に絞った、という思い切った構成が非常に良いと思いました。下手に種数を増やしても初心者には混乱が増えるばかり、ということでしょう。淡水魚を区別できるようになるには、多くの種数を知るより前に、まずはカワムツとヌマムツ、カマツカとツチフキ、シマドジョウとスジシマドジョウ、というような身近なよく似た種類の違いをしっかり認識していくことが重要である、という著者の明確な方針を感じます。分類学的な部分は最新の情報に独自の判断を織り交ぜており、うなづける部分が多かったです。現状、分類学的な研究が出そろってないので、このくらいの書き方が限界かなという気がします。

ハヤ類やタナゴ類など難しい分類群についてはオスとメスと幼魚を基本的に並べてみることができるので、その違いが理解しやすいと思います。各種の解説文はかなりシンプルですが、著者の膨大な経験や科学的知見を濃縮した濃厚かつ独自性の高いもので、実に読み応えがあります。また、コラムではコイ科の系統や染色体の話など、最近の図鑑にはあまり載っていない高度な話題がちりばめられてあります。

著者はドジョウ類の専門家でもあるので、ドジョウも詳しいです。というかちょっと他の分類群より詳しいような気もします。。イシドジョウ類がないのは残念ですが、まあ普通に出会える魚ではないと言えばそうかもしれません。
欲を言えば、もっと大まかな検索が冒頭に欲しかったです。観察会などをしていると、カマツカとヨシノボリの違いを理解するのも難しい、、という声もしばし聞かれますので、例えば泳ぐ形の魚とか底にいる形の魚、とかそういう直感的な絵解き検索などあるとより初心者に優しかったのではないかなと思いました。それと何が載っていて何が載っていないのか、も知りたいところです。日本産淡水魚全リストみたいなのが巻末にあり、その中でこの本で扱った種はどれか、ということが一目でわかるとより良かったでしょうか。
とはいえ、最近出た淡水魚系図鑑の中では「一番面白かった」です。値段も安い(1600円!)ですし、一家に一冊と言う感じでおススメです。