オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Nakajima, J., Suzawa, Y. (2015) Cobitis sakahoko, a new species of spined loach (Cypriniformes: Cobitidae) from southern Kyushu Island, Japan. Ichthyological Research: DOI 10.1007/s10228-015-0476-5(リンク
日本産淡水魚に新しい種が加わりました。宮崎県大淀川水系から新種・オオヨドシマドジョウCobitis sakahoko Nakajima & Suzawa, 2015の記載です。残念ながらオープンアクセスではありません。和名先行で長らく未記載の状況が続いていましたが学名がついて良かったです。オオヨドシマドジョウの発見と和名提唱の先行論文(中島ほか、2011)はこちら→(PDF)。こちらではその起源について簡単に考察しています。種小名のsakahokoは模式産地の源流である霧島山高千穂峰に突き刺さっている伝説の武器「天の逆鉾」にちなんでいます。また雄成魚の骨質盤の形態も長方形で鉾のような形をしており二重の意味が込められています。
大淀川水系のシマドジョウ属が「なんか変」なのは実はかなり古い時代に指摘されてまして、一番はじめにその形態的特徴を報告したのはあの皆森寿美夫博士です。皆森(1951)はその骨質盤の形態から本州にいる「シマドジョウ」と同種として報告しました。ところがいつのまにかその点については触れられなくなり、大淀川のものは九州に広く分布するヤマトシマドジョウということになっていました。しかし、2009年に実際に採集して調べてみたところ、骨質盤の形態は明らかにヤマトシマドジョウと異なることに気づき、遺伝的な特徴とあわせて定義を行いとりあえず和名を提唱したのが中島ほか(2011)になります。そしてそれから4年、ようやく正式に記載することができました。
このオオヨドシマドジョウは大淀川水系の固有種と考えられますが、実は九州南部には独特の水生生物相が存在しており、分布パターンは様々ですがこの他にもオオスミサンショウウオ、ミカゲサワガニ、コシマチビゲンゴロウ、ウスカワゴロモ、オオヨドカワゴロモなどの固有種の分布が知られています。火山の影響で攪乱が激しく生物相は大きな影響を受けていると思われますが、島自体の歴史は古いため、その折々で成立した独自の生物相が断片的に残っているのではないかと考えています。そしてオオヨドシマドジョウもそうした歴史の生き証人の一つではないかと考えています。
残念ながら環境省レッドデータブックでは絶滅危惧IB類に選定されており、今後については楽観できません。特に規制がある種ではありませんが、万が一見つけてしまっても乱獲などは控えて下さい。いつまでもオオヨドシマドジョウが生き残れるよう、色々な方策を考えていかないといけない状況にあります。

未公開カット。雄成魚であれば同定は簡単です。雌は難しいですがいくつかの形質を組み合わせれば区別可能です。遺伝子をみれば確実です。
日本列島の淡水魚類相というのは、従来考えられていたものよりはるかに多様で複雑であるということが、ここ数年の研究で明らかになってきています。まだまだ身近に新しい発見が隠れているかもしれません。そして知られずに絶滅してしまうことのないよう、すべての在来種をもっと大切にしていかないといけません。