オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Kamite, Y., Yoshitomi, H., Hayashi, M. (2017) A remarkable new species of the genus Leptelmis Sharp from Amami-Oshima, with redescription of the larva of Leptelmis gracilis Sharp (Coleoptera, Elmidae, Elminae). Elytra, New Series, 7: 395-408.
日本産ヒメドロムシ科に新たな一種が加わりました!その名もアマミヨコミゾドロムシLeptelmis torikaii Kamite, Yoshitomi & Hayashi, 2017です。バリバリの新種です。衝撃的です。この論文ではあわせてヨコミゾドロムシの再記載と幼虫形態についても報告されています。アジアのヨコミゾドロムシ属の分布マップもついていて、お得な内容です。
アマミヨコミゾドロムシはヨコミゾドロムシよりやや小型であること、脚が赤みを帯びることなどで外見からでも区別は容易です。また、オス交尾器の形態は全く異なるようです。種小名torikaiiは奄美大島在住の小説家で野鳥の会でも活躍されている鳥飼否宇氏に献名されたものです。この新種が発見された川をオススメポイントとして紹介したのが鳥飼氏だそうです。確かにこれまで幾多の虫屋が見逃していたということからして、地元で別の生き物を観察している視点から「良さそう」とこの川を示唆した点は、間違いなくこの新種の発見に貢献していると言えます。余談ですが鳥飼氏は九大理学部出身で、アメンボの研究をされていたそうです。
実はこのヒメドロムシが発見されたのは今年の3月。第1著者のKamite博士よりメールをいただいた時は衝撃的でした。南西諸島には岸物系ヒメドロ(中下流域の植物の根際などで暮らすヒメドロ)はいない、というのが定説であったからです。一目でわかる新種というのが、しかもメジャーな奄美大島にいたというのは衝撃的です。そして発見から9ヶ月で新種記載までもっていけてしまうのも、このメンバーならではでしょう。この方々が本気を出すと早いです。
この論文によればオス交尾器の形態は中国南部のものにむしろ近く、かなり古い時代に中琉球に取り残されて独自の進化を遂げた、いわゆる遺存固有種のようなものではないかと考察されています。アマミノクロウサギルリカケス同様、奄美群島の自然の特異さと貴重さを反映するヒメドロムシであると言えましょう。ただ、同じようなものが沖縄島などにはいる可能性があるかもしれません。

と、いうことで実は先月奄美大島に行った理由の一つはこの種の採集でした。そのお姿をここに公開します。あまりの違和感に採れた瞬間一人で叫んでいました。いきなりこれを採ってしまったKamite博士の興奮は想像を絶する筆舌に尽くしがたいものであったことでしょう・・うらやましい・・

新しい個体と古い個体では雰囲気がだいぶ異なります。こちらは古い個体です。古い個体では脚が斑模様に見え、全体的に黒っぽくなるようです。