湿地帯中毒

湿地帯中毒患者(末期)の日記です。

論文

Tominaga, A., Matsui, M., Tanabe, S., Nishikawa, K. (2019) A revision of Hynobius stejnegeri, a lotic breeding salamander from western Japan, with a description of three new species (Amphibia, Caudata, Hynobiidae). Zootaxa, 4651: 401-433.

分類学的研究が進展するサンショウウオ類ですが、今回コガタブチサンショウウオが再検討され、4種に区別できることが報告されました。すなわち、3新種の記載です。本研究によりコガタブチサンショウウオは九州固有種であることが新たに判明したということになります。

コガタブチサンショウウオHynobius stejnegeri Dunn 1923

分布:九州(福岡県、大分県熊本県、宮崎県、鹿児島県)

マホロバサンショウウオHynobius guttatus Tominaga, Matsui, Tanabe & Nishikawa, 2019

分布:本州(岐阜県三重県滋賀県和歌山県

ツルギサンショウウオHynobius tsurugiensis Tominaga, Matsui, Tanabe & Nishikawa, 2019

分布:四国(徳島県(剣山))

イヨシマサンショウウオHynobius kuishiensis Tominaga, Matsui, Tanabe & Nishikawa, 2019

分布:四国(徳島県(剣山以外)、愛媛県高知県

いずれも遺伝子と形態から区別できることが示されています。

分布域全域をカバーした詳細な分子系統地理研究でもある本論文は、本種群の分布域形成過程に興味深い示唆を与えています。遺伝的解析としてミトコンドリアDNA16SrRNA領域の解析と、アロザイム分析の両方を行っています。これらの結果、コガタブチサンショウウオはいずれの解析でも北部と南部で明瞭に区別できることが明らかにされています。九州の地史を考える上で重要な情報です。

また、四国にはツルギサンショウウオとイヨシマサンショウウオの2種いることが明らかになりましたが、この2種の成立の経緯はかなり複雑そうです。いずれも遺伝的には明瞭に区別できる2種ですが、16SrRNAの領域ではツルギサンショウウオは本州のマホロバサンショウウオの方に近縁であり、イヨシマサンショウウオには種内に明瞭に区別できる2集団が検出されています。ところがアロザイム分析ではツルギサンショウウオはイヨシマサンショウウオやコガタブチサンショウウオのほうに近く、また、イヨシマサンショウウオの2クレードはひとまとまりになることが示されています。イヨシマサンショウウオの2クレードは形態でも区別ができないことから、異なる遺伝的特徴をもった2集団を内包する種として記載するという形がとられています。過去の複雑な分布域の隔離、移動、交雑などが関係しているものと思われ、非常に面白いです。

ということで日本列島の生物多様性の奥深さはまだまだ底が見えません。日本列島の本当の凄さは、まだまだわかっていないことの方が多いのです。それと同時に各地域のあらゆる生物の個体群も「同種だから」といって保全をあきらめてはいけないことがわかります。ましてや「同種だから」といって他産地産の個体群を放流などすることは、単なる環境破壊であるということまで、見えてくるかと思います。少しでも多くの自然遺産を、後の世に残していきたいものです。