オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

非常に非常事態な感じで大変です。屋外へ出るのも控えざるを得ない状況ということで、こんな時はひとつ、学術論文を読むのはどうでしょうか。ということで私が書いた査読あり論文のうち、日本語で、かつ公開されているお勧めを以下に8本紹介します。リンク先からPDFをダウンロードできます。

 

その1「福岡県における純淡水魚類の地理的分布パターンリンク

福岡県内の純淡水魚類相が東西で異なること、種により生息する河川規模が異なることを明らかにし、その魚類相の成立様式を地史と各種の生態の観点から考察。魚採りと文献調査が楽しかった思い出の作品。2006年。

 

その2「カマツカ卵の孵化に及ぼす水温の影響(リンク

コイ科魚類カマツカの最適孵化水温が14~27℃であり、これまで知られている魚類の中ではもっとも広いことを明らかに。厳しい設備の中、毎日死卵数と孵化仔魚数を数えた苦行の末の作品。2006年。

 

その3「宮崎県北川の河川感潮域に造成した人工ワンドにおける魚類,カニ類,甲虫類の定着状況(リンク

河川改修に伴い消滅した自然ワンドの代替環境として造成した人工ワンドにおいて72種の魚類の生息を確認し、保全に役立つことを示す。汽水戦闘力が高まった思い出の作品。2008年。

 

その4「野外におけるヒナモロコの成長と利用環境(リンク 

野外のヒナモロコがほぼ年魚であること、水路と平面的につながった水田内で繁殖することを明らかに。しかしその後にこの場所は圃場整備で消滅。この個体群は台湾産A.kikuchiiとの交雑だったことも判明。読み返すとその後の悲しい思い出がよみがえる作品。2009年。

 

その5「宮崎県大淀川水系から得られた特異なシマドジョウ属(リンク

遺伝子・形態両面から既知種と一致しないシマドジョウ属を報告。実はこれは60年ぶりの「再発見」で、皆森先生の凄さを思い知った作品。この種は後に新種オオヨドシマドジョウとして記載。2011年。

 

その6「九州北部の淡水魚類を用いた平均スコア法による水環境の健全度評価法(リンク)」

淡水魚類相から環境の健全度を簡易に判定する指標をつくってみましたという意欲的な作品。福岡県の環境教育教材に使われている環境指標下敷きの元になりました。2012年。

 

その7「筑前国風土記において貝原益軒が記録した福岡県の淡水魚類(リンク)」

タイトルそのままの内容。個人的にリスペクトしている貝原益軒大先生が1703年に書き上げたあの筑前国風土記を読んで興奮した勢いで書いた作品。筑後川サクラマスがいたのではないかという妄想もはかどる。2013年。

 

その8「カマツカの産卵・初期生態に関する一知見(リンク)」

24時間耐久流下ネット採集×3セットの思い出をまとめた作品。カマツカの卵は夜21時~午前2時にもっとも多く川を流れることを証明。2015年。ちなみにデータをとったのは2005年。

 

以上です。すべての作品には色々な背景と思い出が詰まっており、熱く研究に取り組んでいた当時のそれぞれの記憶がよみがえります。

普段あんまり論文など読まないという方も多いかもしれませんので、論文の構造を解説します。論文は基本的には「題目」「要約」「背景」「材料と方法」「結果」「考察」「文献」から成立しています。「題目」はシンプルかつ内容を端的に表すキャッチーなものがベスト。「要約」は雑誌によって体裁が異なりますがとにかく「要約」です。日本語論文では英語の要約=「Abstract」がついていることが多いです。「背景」はその研究を何故行ったのか?行う必要があるのか?ということを説明する部分で、ちょっとした総説や研究史になっていることも多いです。「材料と方法」はそのまま、なるべく簡潔に、誰でも論文と同じ研究が再現できるように書かれます。「結果」もそのまま、材料と方法によって示したことをした結果が書かれます。そして「考察」が、その「結果」にどういう意味があるのか、これまでの知見と何が違うのか、この結果が何につながるのか、などを「極力暴走せず論理的に読者を説得してその新しさやすばらしさや面白さを伝える」というようなパートになっています。ただの暴走や妄想ではないことを示すために、過去の多くの研究論文を引用し、その考察に説得力を持たせます。最後に「文献」パートですが、ここではその論文で引用した文献をすべて示します。論文内において「著者以外の人が言っていること」はすべて根拠=文献に基づくというのが、学術論文のルールです。したがって「文献」はとても重要です。

それから上の論文はすべて「査読あり」と書きましたが、「査読」というのはその論文の内容が科学的であるかどうかを2~3名の同分野の匿名の研究者がチェックし、意見を述べる手続きです。あまりに不適切だとリジェクトとされ、お蔵入りになります。査読あり論文とはそうした手続きを経た論文であり、その内容の確からしさは、査読なし論文とはくらべものになりません。もちろんそれでも間違うことはあります。あっている、あってない、いや正しい、やっぱり間違ってる・・正しい手続きにより作成した論文による応酬、バトルにより、より確からしい真実にたどり着くのが科学研究のやり方です。

ということで、何らか有用な時間の提供に役立ったとすれば幸いです。今後もがんばって作品を一つでも多く、世に出していければと思います。