オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

書評

棟方有宗・北川忠生・小林牧人(編)「日本の野生メダカを守る −正しく知って正しく守る」生物研究社,2020年.

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メダカという魚は日本ではかなり著名な魚ですが、その実態、そして野生のメダカに起こっている諸問題については知られていないことも多いのではないでしょうか。そんなメダカの最新の科学的知見さらに保全対策について正確に知ることができる素晴らしい本が出ました。そもそも編者からして信頼度が高いです。

出だし、保全のために生活史を理解すべきというのは完全に同意。ここはとても重要です。それから現在もっとも大きな問題とされながら、おそらくその実際があまり理解されていない部分、遺伝的多様性の保全と遺伝的攪乱の問題について、北川先生が解説している第4章は非常に重要です。第6章の保護への提言、第7章の保全事例、第8章の環境教育も良いです。保全を目的とした本なので保全についてはもちろんきちんとしているんですが、生態、分布、遺伝的集団構造、飼育品種など、最新のメダカについての科学的知見がわかりやすく整理されています。コラムもちょっと知りたい、考えたい内容が広いテーマで書かれていて勉強になり、面白いです。そんな中、息抜き的なコラム7の編者3人のメダカの思い出も良いです。

とにかく内容が正確、論理的で丁寧な良い本です。メダカの保全をしたいと思う人は絶対に教科書にしておいて欲しいですし、このくらいの内容は完全に理解しておかないといけないでしょう。この辺勉強したい人には、必読の内容です。おすすめです。とりあえず飼っているメダカをその辺に放してはいけません。それはただの環境破壊です。

 

ところで余談ですが、個人的に面白かったのがコラム6とコラム12。ミナミメダカとキタノメダカは同種か別種かというところ、色々な研究事例に基づいて深く書いていて、ここでの考え方は納得できるものです。ただ、それでも、このような考え方に基づいても明確に線が引けない集団同士というのはあり、特に純淡水魚では同種か別種かをこの線「だけで」考えるのは難しいのではないかと私は考えています。つまり、自然状態で同所的にいない、そして遺伝子と形態の特徴から区別できる、のであれば、直接的な生殖隔離の有無を考えずにそれぞれを「分類学的には」別タクソンとしてラベリングせざるを得ないものもいるのではないかということです。さらにそれらを種か亜種かと区別するのはこれまた難しく、こうしたものはひとまずラベルとしては「種」として定義すべきではないか、ということを最近は考えています。特に純淡水魚については、飛べる生物や海洋分散できる生物とはまったく違った観点から分類を考えないといけないでしょう。完全に余談です。ということで色々考えるのに、やはりメダカという魚とその研究事例を理解することは重要だということがよくわかりました。