オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Watanabe, K., Nakajima, J.(2021)The first record of Berosus (Enoplurus) spinosus (Steven, 1808) (Coleoptera, Hydrophilidae) from Japan.Elytra, New Series, 11:307-310.

共著論文です!日本から未記録であったガムシ科の一種を九州(福岡県)から発見、記録しました。トゲトゲバゴマフガムシ(和名新称)Berosus spinosusです。日本の水生甲虫ファウナに一種を追加することができうれしいです。朝鮮半島から中国、ロシア極東部からヨーロッパ、トルコ、北アフリカまで広く分布する止水性種です。

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これがその御姿です。トゲバゴマフガムシより一回り大型であること、前胸背に黒い斑紋をもつ個体が多いことなどから、野外でもある程度の区別は可能です。確実な同定にはオス交尾器も確認したほうが良いでしょう。

 

さて、本種発見の経緯を。この種は私が昨年に福岡市内の海岸沿いのビオトープでの調査中に採集したものですが、採った瞬間に怪しさMAXで、これは普通のトゲバゴマフガムシではないことはすぐにわかりました。現地ではその環境や大きさからオオトゲバゴマフガムシと思ったものの、持ち帰って解剖して交尾器を見ても当てはまりませんでした。ちょうどその年は県内でオオトゲバゴマフガムシを採集していたこともあり、比較標本はいくつかあったので、それで判明したともいえます。次に似ているのがニッポントゲバゴマフガムシだったのですが、残念ながらこの種は手元に標本がありませんでした。そこでニッポントゲバゴマフガムシを手元にもっており水生甲虫の分類にも詳しい石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平さんに相談しました。外部形態や交尾器形態の特徴から、どうやらどちらでもないということはすぐにわかりました。

しかしそこからが難関です。未記載種か既知種かをまず調べるわけですが、止水性のガムシ類は広域分布種が多く、世界中で記載されている種の文献を集めて検討しました。その結果、未記載種ではなくユーラシアに広くいて、韓国からも記録されている本種の可能性が高いというところまで行きつきました。そこでガムシ科の分類を専門とする北九州市立自然史・歴史博物館の蓑島悠介博士に相談したところ、なんと国外の実物標本をお持ちということで、外部形態等に矛盾がないか意見をもらいました。以上の検討を経て、この種はBerosus spinosusであるという結論を得て、論文化し、このたび無事に記録ができたということになります。

これは私一人ではわからなかったと思います。共著者の渡部さん、そして助言いただいた蓑島博士に大感謝であります。

国内未記録種ということで当然和名がありません。和名についてはムネモンとかクロモンとかなんとかかんとか思い浮かびましたが、どれも似たり寄ったりのグループなので、シンプルに種小名にちなみ、また交尾器先端も毛がトゲのようだったので、トゲ+トゲバゴマフガムシとしました。たぶん種小名の”棘の”は翅端のトゲにちなみますが、まあそこはご愛敬・・。インパクトのある和名ができたかと思います。

さて、本種について真っ先に気になるのが、本種が、自然分布していた在来種なのか、人為的に持ち込まれた外来種なのか、ということです。韓国まで自然分布するので、九州の日本海側は自然分布していてもおかしくありません。区別が難しいグループでもあり、きちんと同定されずに「未発見」であったという理由は十分に考えられます。一方で、みつかったのは埋立地ビオトープで、韓国からの船の行き来も激しい博多湾に面しています。つまり船に乗って人為的に持ち込まれた外来種という可能性も否定できません。ということで今回の発見を契機に、標本箱内の調査が進み、古い採集例が出てくれば、あるいは福岡県以外からもみつかれば、こっそり暮らしていた在来種という説を裏付ける証拠も出てくるかもしれません。今後の調査に期待したいところです。個人的には在来種であって欲しいです!

 

日本の研究.comさんに掲載したプレスリリースです↓ 

research-er.jp

ヤフーニュースにもなっていました↓

news.yahoo.co.jp