オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

真正水生昆虫2021年

2021年も真正水生昆虫の研究は進展しまして、新種が5種、新記録種が3種の合計8種が日本のファウナに追加されました。以下まとめておきます。

 

(新種)イガツブゲンゴロウ Laccophilus shinobi Yanagi & Akita, 2021

分布:本州(三重県) 

※2021年6月に新種として記載。タイプ産地は三重県伊賀市

Yanagi, T., Akita, K. (2021) A new species of the genus Laccophilus (Coleoptera: Dytiscidae: Laccophilinae) from Honshu, Japan. Japanese Journal of Systematic Entomology, 27: 31–34.

ルイスツブゲンゴロウによく似た種。この種群は微妙な形態的差異が地域によってあるような気がするので、より網羅的に再検討するとまた面白いことがわかりそうな気がします。気になるのはこの仲間がどこでも減りつつあること。事実が明らかになる前に絶滅することは避けたいです。

 

(新種)トウカイヒメツヤドロムシ Zaitzeviaria takafumii Hayashi & Yoshitomi, 2021

分布:本州(愛知県)

※2021年6月に新種として記載。タイプ産地は愛知県日進市
Hayashi, M., Yoshitomi, H. (2021) A new species of Zaitzeviaria from Aichi Prefecture, Honshu, Japan (Coleoptera: Elmidae). Japanese Journal of Systematic Entomology, 271: 43–51. 

衝撃の新種。マルヒメツヤドロムシを少し大きくしたような見た目の種。今のところ愛知県固有種ですが、これは東海地方に広く分布する可能性が高いでしょう。ただし平地性種である場合は(今回も平野の端のわずかな細流での発見)、かなり環境改変が進んだ地域なので、すでにその生息地の多くが失われているかもしれません。調査の進展が望まれます。

 

(新記録)ムクゲチビコマツモムシ Anisops elstoni Brooks, 1951

分布:四国(愛媛県),南西諸島(奄美大島沖縄諸島石垣島与那国島);中国,東南アジア,オセアニア

※日本(愛媛県奄美大島、沖縄島、石垣島与那国島)からの新記録。
Watanabe, K., Mitamura, T., Ishikawa, T. (2021) First Rrcord of the back swimmer species Anisops elstoni Brooks (Hemiptera: Notonectidae) in Japan, with a key to the Japanese species. Japanese Journal of Systematic Entomology, 27: 138–140. 

※その後に沖縄諸島伊平屋島伊是名島、沖縄島、宮城島)からの追加記録。
青柳 克(2021)沖縄諸島からコマツモムシ属の一種Anisops elstoniの記録.Rostria, 66: 6-10.

チビコマツモムシと思われていたほとんどが、実はこちらの種だったのではないかという衝撃の報告。ただ本物のチビコマツモムシも確かに国内で採集されているようなので、標本箱の探索が楽しみな逸材。しかし本土でも今後は大きさから安易にチビコマツモ!とか野外で言えなくなります。がんばります。

 

(新記録)オウシュウチビゲンゴロウ Hydroglyphus geminus (Fabricius, 1792)

分布:対馬朝鮮半島,中国,ヨーロッパ,北アフリカ

※日本(対馬)からの新記録。
Okada, R. (2021) First record of Hydroglyphus geminus (Coleoptera, Dytiscidae) from Japan. Elytra, New Series, 11: 187–188.

こちらも衝撃の発見。対馬にチビゲンゴロウによく似た広域分布種がいたとか。チビゲンゴロウに混ざっているようなので、野外でチビゲンに出会ったらじっくり観察する必要があります。

 

(新種)アワメクラゲンゴロウ Morimotoa uenoi Yanagi & Nomura, 2021

分布:四国(徳島県

※2021年10月に新種として記載。タイプ産地は徳島県阿波市
Yanagi, T., Nomura, S. (2021) A new species of the subterranean diving beetle genus Morimotoa (Coleoptera, Dytiscidae) from Tokushima Prefecture, Japan. Elytra, Tokyo, New Series, 11 (Supplement): 87–93. 

ついに来たかという地下水性の新種。これまでこの分野は故・上野俊一博士の独壇場でしたが、若手で調査をはじめた人が現れました。まだまだ新種が出るのではないでしょうか。期待大です。

 

(新種)ケブカケシカタビロアメンボ Microvelia pilosa Matsushima, Morii & Ohba, 2021

分布:本州(愛知県)

※2021年11月に新種として記載。タイプ産地は愛知県名古屋市
Matsushima, R., Morii, T., Hiraishi, N., Ohba, S. (2021) A new species of small water strider in the genus Microvelia (Hemiptera: Heteroptera: Veliidae) from Aichi prefecture, Honshu, Japan. Zoological Science, 38: 565-571. (https://doi.org/10.2108/zs210035)

こちらはチャイロケシカタビロアメンボの中に、見た目で区別ができるほどの違う種が混ざっていたという衝撃の新種。確かに移動性の少なそうなグループですし、小さいので見落とされがちです。カタビロアメンボ科は既知の学名未決定種もいくつか知られているので、今後の研究の進展が楽しみです。ちなみに記載者Moriiさんは、上のトウカイヒメツヤドロムシの発見者で種小名takafumiiのその人です。愛知県に天才現る・・。

 

(新種)バンダイホソガムシ Hydrochus mitamurai Hirasawa & Yoshitomi, 2021

分布:本州(福島県

※2021年12月に新種として記載。タイプ産地は福島県郡山市
Hirasawa, K., Yoshitomi, H. (2021) A new species of the genus Hydrochus (Coleoptera, Hydrochidae) from Fukushima, northeastern Japan. Elytra, New Series, 11: 301-305. 

こちらもまったく予想外の新種発見。ホソガムシ科に5種目がいたとは驚きです。外部形態からも区別可能な顕著な種。ホソガムシ科は環境の悪化に弱く、既知種はいずれも生息地がかなり限られてきています。そんな中、こうして「発見」されたのは良かったです。この勢いで北海道・サロベツから知られる幻のキタホソガムシの再発見も期待したいです。

 

(新記録)

トゲトゲバゴマフガムシ Berosus spinosus (Steven, 1808)

分布:九州(福岡県);朝鮮半島,中国,ロシア極東部~ヨーロッパ,北アフリカ

※日本(福岡県)からの初記録。
Watanabe, K., Nakajima, J.(2021)The first record of Berosus (Enoplurus) spinosus (Steven, 1808) (Coleoptera, Hydrophilidae) from Japan.Elytra, New Series, 11:307-310. 

発見の喜びと興奮の様子は前のブログ記事(リンク)にて。自らの手で日本産種に一種追加できたのはうれしいことです。まだ老け込まないでがんばります。

以上です。

2019年末から2020年にかけて9種が新たに報告され、今年が8種ですので、ネイチャーガイド日本の水生昆虫出版後わずか2年で17種が新たに日本のファウナに加わったことになります。ちょっと驚きの展開です。日本の水生昆虫の多様性は驚くべきものです。なんとか保全していきたいものです。来年も各地で調査・研究が進むことを期待しています!

 

2020年のまとめはこちらです

oikawamaru.hatenablog.com