オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

秋も終わりかかっています。会議とか調査とかしています。最近は諸事情あってミズカメムシの資料を整理しています。ミズカメムシは若干知名度が低い水面性のカメムシの仲間で、福岡県ではこれまでに4種の記録があります。2009年に書いた「福岡県の水生昆虫図鑑」にはミズカメムシ科が載っていないのですが、それは私に知識がなかったためです。しかしその後は修行を積み、ネイチャーガイド日本の水生昆虫ではきちんと全種紹介し、昨年にはキタミズカメムシ九州初記録論文を発表するなど(伊藤・中島,2021)、着実に勉強を続けています。ということで福岡県で記録のある4種を紹介します。写真はすべて福岡県産です。(※折々追記しています)

 

ミズカメムシMesovelia vittigera

ザ・ミズカメムシの名に恥じず、本科を代表する種として国内各地に普通です。と、色々なところで言われているものの、実は東日本ではかなり珍しいのではないかとか、南西諸島産は本当にこの種なのかとか、地味に闇の残る種です。きわめて広い分布域をもつ種で、九州ではため池や水田など平野部を中心にみられます。写真の個体は暗色ですが、もう少し緑色味の強い個体もいます。体長2.3-3.4 mm。

 

ムモンミズカメムシMesovelia miyamotoi

水生植物が豊富なため池などに生息し、各地に普通です。鮮やかな緑色とやや大きな体から、日本産ミズカメムシの中ではもっとも「映える」かっこいい種です。体長2.7-3.4 mm。

 

マダラミズカメムシ Mesovelia japonica

林内の池や渓流沿いなどの薄暗い環境を好みます。やや小型で独特の模様があり個性的な種です。各地に普通と思われますが、あまり気づかれていない可能性があります。なお、本種はMesovelia horvathiのシノニムという見解もありますが、この見解は要検討という見解もあり、地理分布や本種の移動能力などから個人的にはjaponicaを使用していますが、今後はやっぱりhorvathiが正しいということになるかもしれませんので、注意が必要です。あと本土産と南西諸島産がそもそも同じなのかという点も。体長2.1-2.8 mm。

 

キタミズカメムシMesovelia egorovi

汽水性というこれまた個性的なミズカメムシです。海岸沿いのヨシ等が豊富な池に生息し、少々塩分が入っている環境を好みます。やや大型で暗色な上になんとなく固いというか光沢のある独特な質感をもちますが、ミズカメムシに似ているので同定は慎重にした方が良いでしょう。南西諸島からも記録されていますが、果たして同種なのか。そもそもミズカメムシとかなり似ているのではないか、など、微妙に謎が残っています。ただし九州産のミズカメムシとキタミズカメムシは遺伝子の特徴が異なり区別できます(オイカワ丸,未発表)。体長2.4-3.7 mm。

 

この他にヘリグロミズカメムシとウミミズカメムシも県内にいそうなので探しているのですが、今のところ見つかっていません。もしそれらしい情報があれば教えて下さい。なおヘリグロミズカメムシは北方系の種で、まだ九州からの記録もないようです。

 

ミズカメムシ類は成虫になっても翅がない無翅型が多いですが、このような長翅型も稀にみられます(写真はムモンミズカメムシ)。なお「ネイチャーガイド日本の水生昆虫」にはキタミズカメムシについて「無翅型のみが知られる」と書きましたが、その後なんと長翅型がみつかり記録されました(金田・渡部,2021)。超レアです。ミズカメムシ、ムモン、マダラについても長翅型は珍しいものの、キタミズほどではなく、そこそこ見かけます。長翅型の出現に季節性があるのかはよくわかりませんが、これらの種については秋によく見かけるような気もします。こうしたレア型を探すなどの高度な楽しみ方もあります。ミズカメムシの仲間は意外に身近な水辺にいますので、ぜひ探してみてください。

 

同定については文一総合出版の「タガメ・ミズムシ・アメンボ ハンドブック」がわかりやすいです→(リンク

もちろん「ネイチャーガイド日本の水生昆虫(リンク)」にも全種掲載しています。ただページの関係であまり詳しい同定法は書けませんでした。。2冊あわせて読むとだいぶ理解が進むと思います。