「農水省、有明海再生に交付金新設へ 予算案に10億円計上で調整」という新聞記事を見ました。もう諫早湾はあけない、という前提で10年間総額100億円規模の交付金を出すということだそうです。
また、本件について「「漁業者の手取り増加に期待」 江藤農相、有明海再生支援で」という新聞記事もみました。
この上記の2つの記事を見ますと、農林水産省が考える有明海再生の秘策は「海底の耕運」「二枚貝の養殖」「藻場の再生」であるとのことなので、ちょっと絶望しています(野生のスサビノリとかアサクサノリがもさもさ生えた”藻場”を有明海に再生したいと農水省様が考えている可能性はありますが、有明海湾奥部には”いわゆる藻場”は発達しません)。これを100億円使ってするそうなので、無理よりの無理です・・いくらなんでも・・。
さて、ご存知の通り、有明海の生物相は壊滅しつつあり、かつていくらでもいた水産有用種も壊滅的です。このことは以前に本ブログでも記事にしました。
その理由は複合的であり、諫早湾干拓もその一つですが、筑後大堰からの大量の取水(水は主に福岡市に行っている)、ずっと続いている筑紫平野の農業水路のコンクリート化、流入河川での大規模河川改修などすべての積み重ねなのでしょう。とは言え、水産業が完全にだめになってしまうと、当地域における飲食業や観光業は大きなダメージを受けるものと思います。
だから有明海再生というのは地域のためにもなんとか進めていく必要があるわけですが、そのためにはこの交付金で有明海がきちんと再生していかなくてはいけませんし、実際に再生しているかどうかをきちんとチェックしていく必要があります。漁業の場でもありますが、みんなの海でもあります。税金を使った事業ですから、私も、国民の一人として見ていきたいと思います。
そして、私が思う有明海再生策の一つは、ずばり、沿岸域のエコトーン再生です。
実際に行ってみるとわかりますが、有明海の今の沿岸域はほとんど上の画像のような感じで、完全にエコトーンが壊れているのです(これは柳川市の矢部川河口)。
それを少しでも、上の風景のようにしていく(写真はみやま市の矢部川下流)。これが真の有明海再生につながると考えます。もちろん防潮対策は重要です。だから堤防を壊して元に戻すということを言いたいわけではありません。堤防を設置した理由、必要な理由はあるわけですから、その目的は達成したままで、新しい思想での、新しいデザインの、有明海再生モデルの新しい多自然堤防をつくっていくべきです。そういう公共工事をガンガン入れていくことこそが、地方創生につながる正しい税金の使い方ではないか、そのように私は考えています。
ちなみに上の写真の場所ですが、岩をひっくり返すとこのようにカワザンショウガイの仲間がたくさんいます。実はここはもともと垂直護岸が入っていた場所ですが、エコトーン再生を目的として護岸を少し削り、ちょっと上流側から植物をもってきて、再生した場所なのです。再生から数年で多くの生物がすむようになりました。これが有明海の沿岸域全体で生じたら、色々な生物が増え、水産有用種も増えると思いませんか。いくつかの生態学的研究の成果を見ても、その仮説は十分に成り立つと思います。少なくとも「海底耕運」「二枚貝養殖」「藻場造成」よりは、確実に、有明海全体の再生に近づくと私は考えます。
有明海湾奥部についていえば、再生すべきは沿岸域のエコトーンです。生態系の仕組みが、普通の海とは違うのです。再生すべきはヨシからイセウキヤガラ、そしてシチメンソウと連なる”大草原”です。道のりは遠そうです。
農林水産省は大丈夫でしょうか。本当に、これからの有明海が、心配です。
こちら有明海沿岸にわずかに残るイセウキヤガラ群落です。干潮時には草原となり、満潮時には水没し”藻場”のようになります。有明海湾奥部で再生するべきは、こうした環境です。