オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Miyake, T., Nakajima, J., Onikura, N., Ikemoto, S., Iguchi, K., Komaru, A., Kawamura, K. (2010) The genetic status of two subspecies of Rhodeus atremius, an endangered bitterling in Japan. Conservation Genetics: in press. (DOI: 10.1007/s10592-010-0146-0)

カゼトゲタナゴRhodeus atremius atremiusとその亜種スイゲンゼニタナゴR. atremius suigensisの遺伝的特徴に関する論文。内容は主にミトコンドリアDNA部分塩基配列の特徴からみた地域集団の把握と、マイクロサテライトマーカーを用いた地域集団内の遺伝的多様性の現状についてです。系統地理の考察に必要な水系はすべて組み込まれて解析されており、サンプリング地点に漏れはないです。決定版といえるでしょう。
で、内容については色々あるのですが、特に一般的に興味深いと思われる点について。まずカゼトゲとスイゲンは遺伝的にも明瞭に区別できる集団ということで、亜種区分については妥当ではないかということがこの論文で裏付けられたと思います。そんななか、やはりスイゲンの遺伝的多様性はカゼトゲと比較して極端に低く、またスイゲンの生息地の一部に人為的移入が原因と思われるカゼトゲの遺伝子が出てきており、やはり危機的状況にあるということも再確認できます。
またカゼトゲの遺伝的な地理分布パターンがちょっと変わっているというところは興味深いかなと思います。九州北部では純淡水魚類相が東部と西部で大きく異なっており、同種であっても遺伝的に異なる例が知られています(メダカとかドンコとか)。この辺は個人的にも色々調べているところなのでもう少し知見が蓄積したらまたブログにてまとめたいと思います。しかしやっぱり遠賀川は九州北部の淡水魚類相の成立様式を考察する上で重要な川のようです。
それと分類学的な部分について疑問点をひとつ。そもそもスイゲンゼニタナゴR. suigensisというのは韓国の水源産の標本に基づき1935年に記載されています(記載時の属は別)。その後suigensisは1914年に記載されているカゼトゲR. atremiusの亜種に降格したわけです。しかしsuigensisは1929年に記載されていたR. notatusのシノニムとされ、韓国でかつてsuigensisとされていたタナゴは現在notatusとなっています。この論文では韓国のR. notatusの遺伝子も解析に加えていますが、やっぱり当然ながら日本のスイゲンとは全くもって別種です。そうすると、日本のスイゲンって未記載の亜種になるんではないの・・と思うのですが・・。誰か教えて下さい〜。

せっかくなので画像を。

スイゲンゼニタナゴ。種の保存法により許可なく採集飼育が禁止されています。これは環境省の許可をとって行われた調査に参加させてもらったときに撮影したものです。この2亜種の主要な識別点として体側の青いラインの前端がスイゲンでは太く丸くて、カゼトゲでは細く尖るというのが有名ですが、下の写真と比べるとたしかに、という感じではあります。

カゼトゲタナゴ。個人的に九州のタナゴで一番好きです。全体として絶滅寸前という感じではありませんが、場所によってはかなり減ってきているので、今後きちんとモニタリングをしておく必要があります。