オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Kakioka, R., Kokita, T., Tabata, R., Mori, S., Watanabe, K. 2012. The origins of limnetic forms and cryptic divergence in Gnathopogon fishes (Cyprinidae) in Japan. Environmental Biology of Fishes: DOI: 10.1007/s10641-012-0054-x
先月に出ていたタモロコ属の系統地理論文。最新の手法が投入されており、分野外の私にとっては大変に勉強になる論文でした。国内のこの属にはホンモロコGnathopogon caerulescens、タモロコG. elongatus elogatus、タモロコの亜種スワモロコG. elongatus suwaeの2種2亜種が知られています。この中でスワモロコについては情報が少なく、環境省レッドリストでは絶滅種に指定されている一方で、文献によっては全く扱われていなかったりもしています。
本論文では網羅的な系統地理解析により、国内のタモロコ属に遺伝的に区別できる4系統が存在することを明らかにしています。そして、中でも興味深いのは、天竜川上流某谷で出たというE3系統でしょうか。ご存知のとおり天竜川の水源の一つは諏訪湖であり、すなわちこれはスワモロコが実在していた、ていうかまだ存在している、という可能性を示すものでした。衝撃です。
その他興味深い点が多々あり、例えば別種とされる「ホンモロコ」と「タモロコ」は少なくとも今回の遺伝子領域では、従来識別点とされている形態的特長と遺伝的な違いが一致しないというところや、そうは言っても、琵琶湖内に生息する見た目ホンモロコは、琵琶湖周辺に生息する見た目タモロコとは遺伝的にも区別できる、という点は、ホンモロコ-タモロコの関係を考える上で、またコイ科魚類の(わりと適当な)形態変異システムを考える上で、なにやら面白いです。
ただ残念ながら、本属の遺伝的な撹乱は相当深刻なようで、地域ごとに本来あったであろう遺伝的な個性はすでに失われつつあるように見受けられます。いわゆるホンモロコ+西日本タモロコの系統が日本各地から出ていることから、この原因はやはりホンモロコの放流にあるのでしょう。何とも残念なことです。ただ、まだ純系が残っているかもしれないスワモロコについては、本文でも触れられているように早急な調査が必要であるように思います。

ちなみに九州北部にも部分的にタモロコが分布しています。画像は福岡市内産タモロコ。数年前の某プロジェクトポスドク時代に、タモロコも集めてエタノール標本にしたんですけど、これらの標本はどうなったんでしょうか。九州での分布は超不連続なので、九州では外来種なんだと思いますが、どこ産に由来するのかはっきりさせときたいところです。でも韓国には同属のシマモロコG. strigatusが分布していて、タモロコも西日本に広く分布してるのに、九州にはこの属が一切分布していないというのも不思議です。

ついでに昨年の韓国旅行で採集したシマモロコ。縦条が独特。でも色あせるとタモロコそっくり。