オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

藤原淳一(2012)鳥取県大山山麓南西域におけるセアカヒメドロムシOptioservus maculatus Nomura(コウチュウ目ヒメドロムシ科)の生活史に関する研究.ホシザキグリーン財団研究報告特別号,7:1-10.
日本のヒメドロ生活史研究において永遠に評価されるであろう論文。2年間の野外調査と飼育下の観察を組み合わせて、これまで謎につつまれていたセアカヒメドロムシの生活史を明らかにしています。
個人的に興味深かったのは、幼虫の齢期が7齢まであること、成虫はダラダラ生きているものの新成虫が夏に出現すること、幼虫期間は1〜2年であること、などをきちんと示した点です。あと成虫のスレ具合を三段階に分けるとかも地味に面白い視点。おそらく本邦初公開の卵の画像も良いです(ただ卵のサイズが書いてない?)。
この論文の中で示されている、「野外における若齢幼虫の個体数が4齢以降の幼虫の個体数と比較して極端に少ない」、というのは私も以前に師匠と調べた時に(福岡のハガマルとセアカ)気づいた現象で、今回もその理由は謎のまま残されています。本論文でも考察しているように、底質の深い場所に潜っている可能性が高そうです。
ところで昨今、生活史の記載的研究にとり組んでいる人が減っているように思われますが、実は応用現場では必要な研究であることを痛感しています。例えばある場所で生物に配慮して工事をするような場合に、何月にどのような方法で行うべきか、などを科学的に決定するにはそこに棲む生物の生活史の知見が必要不可欠です。またその前段階で生物を対象にした環境アセスメント調査をする時期を決めるにも、生活史の知見がなくては結果を誤る恐れがあります。いつどこで産卵して、どのくらいの速さで成長して、生活史の各ステージで利用する環境構造はこうで、といった情報が科学的に明らかになっていない生物はまだまだ身近にもたくさんいます。明らかでないから調べる(穴掘り研究)は、こと野生生物分野に関してはもっと進めていくべきでしょう。
スケールが大きく一般性が高い生態学も良いのですが、こういう枚挙的・記載的な生物学ももっと評価されるべきです。