オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

玉手英利(2013)遺伝的多様性から見えてくる日本の哺乳類相:過去・現在・未来.地球環境,18:159-167.(リンク
SZ-1氏に教えてもらいました(感謝)。近年、分子系統解析が盛んになって、日本列島に広域分布する色々な分類群の生物についての系統地理論文が多くでています。これは3年前のものですが、哺乳類の系統地理研究をまとめた総説です。オープンアクセスなのでリンク先からPDFをダウンロードして読むことができます。
まずはこんなに色々な哺乳類でその遺伝的集団構造が明らかになっているのか、ということに驚きました。それから多くの淡水魚類ではすでに明らかにされていますが、哺乳類においてもニホンザルツキノワグマニホンジカ、ニホンノウサギ、ニホンジネズミ、ムササビ、イタチなど多くの種類で、本州の東と西(あるいは南北)でその遺伝的特徴が異なることが明らかになっていることがわかります。その境界線は種によって異なり、ここはそれぞれの種の生態的特性によるのだと思いますが、非常に興味深いです。あとムササビ、カワネズミ、コウベモグラなどいくつかの種では九州に特異的な集団がいるのですね。
網羅的な系統地理研究は一つ一つは記載的な自然史研究としての側面が強いものですが、こうして色々な分類群を比較して俯瞰することで、新たな生物学的興味を呼び起こすように思います。こういう記載的な研究は進化生態学などの分野のみならず、保全という社会的な分野にも色々な角度から貢献するのではないでしょうか。
ということで哺乳類のみならず、爬虫類、両生類、魚類、無脊椎動物などなど、多様な分類群にわたる広域分布種(群)の系統地理研究を俯瞰できるような総説とか本とか、そういうの読んでおおいに妄想したいな、というお話でした。どなたかそういう本を出してもらえないでしょうか。けっこう買う人多いのでは?