オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

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今年発売された「日本のドジョウ〜形態・生態・文化と図鑑〜(山と渓谷社)」。生き物好きのちびっこ(あるいは自分)へのプレゼントにお悩みの皆様に向けて、この図鑑がいかにそうしたプレゼントに最適の書籍なのか、要注目ポイントとともに解説したいと思います。

↑表紙です。これまでの図鑑にないクールな仕上がりです。実はデザインの方には黒が好き、とは一言も言っていませんが、仕上げていただいた表紙は非の打ち所がない黒表紙でした。飾っておくだけで知的な雰囲気を醸し出す最高のインテリアになります。そして内容は3部構成で、第1部ドジョウの魚類学、第2部ドジョウと分化、第3部日本のドジョウ図鑑、という風になっています。

↑肝心要の第3部、図鑑編から紹介します。実は編集のK柳氏と著者の一人N島氏がぼーっとしていたせいでこの図鑑には凡例がないのですが、これを凡例として下さい。なお、当然のことながら2017年現在日本国内から知られている全種・亜種のドジョウが掲載されています。
(1)プレート。全種について横向きの雄雌プレートをつけています。けっこう驚異的だと思います。
(2)プレート上から。ここはこだわりの部分で、全種について上からの様子が確認できます。シマドジョウ属の背部斑紋列の美しさを堪能できます。
(3)右胸鰭拡大。ドジョウ科の分類に重要な胸鰭の拡大写真。恐るべきことにこれも全種つけています。
(4)形態での特徴をメモ的にまとめています。
(5)解説文です。分類の変遷、生息状況、チャームポイントなどについて、文献情報や自ら得た生の情報に基づいて独自色豊かに解説しています。ちなみに著者は絶滅したヨドコガタスジシマドジョウ以外はすべて現地にて採集経験があります。
(6)形態。全種について自らが計測したデータを中心に整理しています。専門的な部分です。
(7)区別。これは便利だと思うのですが、同じ地域でみられる良く似た種との区別点を整理しています。
(8)分布情報と分布地図。都道府県名をすべて書き、あわせて地図上ではなるべく細かい生息域を塗っています。青が自然分布、ピンクが外来分布です。
(9)生態。文献情報を中心に現時点で判明している情報を盛り込みました。
(10)地方名。ここはこだわりポイントで、なるべく色々な地方名を拾いました。かつての淡水魚図鑑には必ずあった部分でもあります。
(11)最新の環境省レッドリストのランクを載せています。
(12)英文による要約。各種について簡潔に学名、模式産地、形態、英語表記名の変遷などをまとめました。特にミトコンドリアDNAの部分塩基配列のアクセッションナンバーを掲載しているところはこだわりポイントで、DNAバーコーディングによる同定を意識したものです。余談ですがチェコのBohlen博士や中国のChen博士にこの部分を絶賛されました。
(13)内容をまとめるにあたり参考にした文献番号です。これにより元の情報を探索できます。文献は巻末220ページからタイトルや雑誌名をまとめています(全170タイトル!)。

↑各種基本的に4ページ構成で次の2ページはこのように生体写真が中心となっています。水槽写真に加えて種によっては野外での生態写真も載せています。また全種に生息環境の写真を載せました。内山りゅう氏の美しい写真を大判で堪能できる魅惑の場所で、写真集としても楽しめます。

↑戻って第1部ドジョウの魚類学です。形態、生態、分類史など学術的な部分を総説的に解説しました。これは外部形態の頁です。英語表記をなるべく併記しました。

↑これは骨格系の頁です。松尾怜さんの手によって作成された美しい透明標本を、内山りゅうさんが特殊水槽で撮影したものです。美しいです。こちらも英語表記をなるべく併記しました。

↑こだわりポイントの見開きイラストです。イラストは安斉俊さんに描いていただきました。昔の子供向け図鑑には必ず美しい絵があったと思いますが、そうしたものを意識しました。とても美しく細部まで描き込まれた素晴らしい絵です。琵琶湖周辺域のドジョウの世界をイメージしています。川の左岸側(向かって右側)が原生的な環境で、右岸側(向かって左側)が人為的に改変された環境です。かつては人為的な環境でも多くのドジョウと共存できていた様子を表現しています。

↑続いて第2部ドジョウと文化です。ドジョウ文化の紹介も本図鑑の大きな特徴です。これは食文化の頁です。続く頁では自分が食べたドジョウ料理や養殖などについても解説しています。

↑こちらはドジョウと民俗です。ドジョウはしばしば信仰の対象になっており、見に行ったものを中心に各地の珍しいドジョウ文化を紹介しています。

↑江戸時代などに描かれたドジョウの絵なども、まとめて紹介しています。いにしえの人々が感動したドジョウの姿を堪能することができます。

↑巻末には日本産ドジョウの絵解き検索を掲載しています。本格的な同定は標本に基づかないとなかなか難しいのですが、この検索に従えば生きた状態でもある程度の同定が可能であると思われます。絵解きなのでポイントも理解しやすいと思います。

↑各地域ごとの簡易同定表もつけました。どこで採ったか絞れれば、実は対象となる種はあまり多くありません。そうした観点からの同定も可能なようにしてみました。

↑最後は文献です。本図鑑で引用した170報をまとめています。アルファベット順に番号を振っており、図鑑編各種の頁で記された番号と対応しています。特筆すべき点として和文論文についてはすべて英語表記もカッコ内に併記していることです。これにより引用する時も楽々であります。
優れた図鑑は人生を変える、まさに私がそうだったわけですが、手に入れた方にとってそうした図鑑になってくれればと、そうした信念をもって作成いたしました。単なる図鑑としての有用性だけではなく、写真集や読み物、学術書保全のための指針づくりなど、色々な使い方・楽しみ方ができる図鑑であると思います。プレゼントとして最適の書籍の一つではないでしょうか。一家に一冊、日本のドジョウ。
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