オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Watanabe, K., Kamite, Y. (2018) A new species of the genus Laccophilus (Coleoptera, Dytiscidae) from Japan. Elytra, New Series, 8: 417–427.

国内から新種のゲンゴロウ科、ニセコウベツブゲンゴロウLaccophilus yoshitomii Watanabe & Kamite, 2018が記載されました!新進気鋭の渡部晃平氏と水生甲虫界エースの上手雄貴氏の強力タッグによる論文です。模式産地は石川県金沢市で、本州(東北地方)~九州北部(福岡県)の広域で採集されています。名前のとおりコウベツブゲンゴロウL. kobensisに酷似していますが、交尾器形態の違いは明瞭であり、加えて上翅末端部の模様の特徴からもかなりの精度で区別が可能なようです。

今回の論文ではコウベツブゲンゴロウの標本も精査されており、過去の本州の記録がすべてニセコウベツブゲンゴロウであったわけではなく、コウベツブゲンゴロウも本州以南から広く得られていることが確認されています(今回の論文では本種の分布域として本州、四国、九州、南西諸島、五島列島対馬、台湾、韓国、中国が挙げられています)。すなわち、この2種は本州~九州北部で広い共存域をもっているようです。

ただ、ニセコウベツブゲンゴロウは比較的水温が低い樹林内の薄暗い環境で採集されていることが多く、一方でコウベツブゲンゴロウは開けた明るい環境で採集されていることが多いようで、地域的には広く共存域をもっているものの、その生息環境には違いがある可能性が高いです。2種の生態の違いについては今後の研究が必要ですね。

それから実は今回のニセコウベツブゲンゴロウの副模式標本には私が採集した福岡県産のものも使われています。うれしいです。すでに私はこの種を採ったことがあるということになり、自力採集ゲンゴロウ科が一種増えました。それでは福岡県にはコウベツブゲンゴロウはいなかったのかというと実はそうではなく、北九州市立自然史歴史博物館の行徳コレクションに入っていたものは正真正銘のコウベツブゲンゴロウであることが今回の論文で示されています。すなわち福岡県内には2種ともに標本に基づく記録があるということになり、福岡県産ゲンゴロウ科も一種増えたということになります。たいへんめでたいです。

しかしめでたがってばかりいるわけにはいきません。実は現時点でこの2種の確実な産地は県内に存在しないからです。ニセコウベツブゲンゴロウの最後の採集例は2004年、コウベツブゲンゴロウに至っては1938年(!)です。なんとか県内に生き残っていて欲しいです。今回の新種記載を契機に、各地で調査が進展することが期待されます。

日本列島の生物多様性にはまだまだわかっていないことが多いです。知らないうちにすべて失っていたということにならないよう、地道な自然史研究が各地で進展し、保全されるべき環境や生物がきちんと保全される世の中になっていって欲しいものです。

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そんなニセコウベツブゲンゴロウLaccophilus yoshitomii Watanabe & Kamite, 2018の御姿がこちらになります!写真を提供していただいた渡部晃平さん、ありがとうございました!カッコイイ!!