中島 淳・林 成多・石田和男・北野 忠・吉富博之(2020)ネイチャーガイド日本の水生昆虫.文一総合出版(リンク)
ついに出版となりました。感無量です。本図鑑が対象としているのは水生昆虫のうち、成虫も水生である「真水生種」、すなわちコウチュウ目とカメムシ目です。ようするにゲンゴロウ、ミズスマシ、ガムシ、タガメ、ミズカマキリ、アメンボなどの仲間です。
本図鑑の作成方針にはまず3つの重要なポイントがあります。1つは網羅性。2019年11月末までに記録がある485種・亜種のうち、480種・亜種を図鑑パートで紹介し、残りの5種についても検索パートで言及しているので、完全網羅と言っても過言ではありません。もう1つは生体写真にこだわったところで、掲載種の9割を生体で紹介することができました。そのため一般的な水生昆虫のイメージを覆す美しさを堪能することができます。さらにもう1つは同定にこだわったところで、直感的に科の識別ができる絵解きプレートを各目の前に配置するとともに、巻末には種まで同定できる新しい絵解き検索を完備しました。もちろん解剖しないと難しい種類もありますが、直感的にある程度のグルーピングができる、詳しい人ならこれだけで種同定までできる、という資料になっていると思います。この同定をする上で、完全網羅と生体写真中心というのは、きっとお役にたつだろうと思います。
さて、裏話。本図鑑作成のそもそもの経緯は、ヒメドロムシハンドブックをつくりたい!というものでした。ということで企画をもちこんだのですが、あえなく却下。しかし網羅性が高く同定に使えるハイアマチュア向けのものならいけるのでは、ということで企画が通ってしまいました。しかしそれは実は10年前・・ということで完成まで編集N氏には多大なご迷惑をおかけしました。ここまで粘り強く尽力していただいたこと、ただただ感謝です。本当にありがとうございました。
はじめの3つの目標は私の中では当初よりあったものですが、完全網羅となると当然のことながら私一人では到底手におえる代物ではありません。そこで水生昆虫全般に詳しく生体写真も多く撮影されている林 成多さんにまずは共著者として入ってもらいました。それからやはり水生カメムシ、これは石田和男さんが各地を回ってカタビロアメンボ類を中心に多数の生体写真を撮影されていることを知っていたので、共著者に入ってもらいました。それから、ゲンゴロウ類やガムシ類について、各地での採集経験をお持ちで多く生体写真を撮影されている北野 忠さんに、共著者に入っていただきました。その上で、全体の専門的な部分のチェックや監修的な立場で、吉富博之さんに入っていただきました。それでも揃えられなかった種について、各地の凄腕の方々から生体写真や標本をお借りして、そろえることができました。特に美しい秘蔵の生体写真を多く提供いただいた渡部晃平さんには大変感謝しています。
ということで見どころは色々とありますが、生体写真で揃えることができたコガシラミズムシ科、マルヒメドロムシ属、カタビロアメンボ科、ここはかなりすごいのではないかと思います。それからダルマガムシ属についてはさすがに生体で揃えることはできませんでしたが、全種をはじめて紹介することができました。ここも見どころです。生体写真が揃ったという点では、マルケシゲンゴロウ属、ツブゲンゴロウ属、マメゲンゴロウ属、シジミガムシ属、セスジガムシ科、アメンボ科などなど、あとコウチュウ幼虫については科までの検索もあります。あれもこれもそれもどれもすごいなと自分で思います。ここ見て欲しいという点はいくつもあります。とにかく、何はともあれ、めくるめくすばらしい水生昆虫の世界を堪能してください。
それから・・かなり慎重に校正を行いましたがこれだけの種数を扱っているので、どうしても分布域など細かいミスも出てきています。そのあたりはきちんと出版社のほうで正誤表を出してもらい、こちらのブログでも紹介しますのでチェックしておいてください。また何か気づいた点がありましたら、ご報告いただけますと幸いです。この図鑑と正誤表をみることで現時点での情報がよりきちんと整理できる、そういう風に前向きにとらえたいと思います。図鑑は楽しむものでもありますが、一方では学術的な総説でもあります。この図鑑を契機に水生昆虫に興味を持つ人が増え、研究や保全に取り組む人が増えてくれることを期待しています。また、それに加えて、これまで水生昆虫にまったく縁のなかった方々が、この図鑑を手に取ることで水生昆虫に興味をもち、普通にいる身近な種のことを気にかけてくれるようになることも期待しています。
まるはなのみのみでの書評です。あわせてお読みください。「著者が全力で殴りかかってくるような、図鑑で殴られ気絶するような、そんな1冊」。。