先日の日記でこんな渓流の「ひどい」三面コンクリート護岸を紹介しました。ではどうしたら良いのかということを考えてみたいと思います。
そもそものこの地点。底面を完全にコンクリート張りにしており、護岸も一見石風ですがつるつるのコンクリート製なので、生物はほとんど生息することができません。これは最悪です。
この地点も同様。一見、石が埋め込まれているので少しはましなようにも見えますが、深く埋めているので石と石の間はそのままコンクリートでつるつるです。したがって同様に生物の生息場がほとんどありません。これもひどいです。ただ護岸はあまりいじっていないので、水際は少し再生する可能性があります。また水際から森林への移行帯(エコトーン)は残っているので、もう一工夫で良い渓流ができたのではないかという場所です。
一方でかなり自然度の高い良い渓流。上の2つの渓流はおそらく、改修前はこの地点のような感じであったものと推察されます。この地点では片側は護岸されていますが石垣で、片側はまったく自然の景観です。渓流から森林への移行帯が本来どういうのものかがよくわかります。こういう渓流には当然のことながら多くの生物が生息しています。これは生物視点でみれば最高に良い渓流の一つです。
この地点では奥に見える落差工、そして手前にも落差工がありその前後はコンクリートで固めており、さらに両岸も完全にコンクリート護岸です。しかし、落差工の間は自然の川床を残してあり、ここを残したことで多くの生物が生息可能となっています。ただし渓流から森林への移行帯はありません。
この地点では川底は完全にコンクリートで固めてありますが、人頭大の石を埋めてあります。生物にとってはあまり良いとは言えませんが、2枚目の写真と異なり石が大きいこと、そして石が底のコンクリート面から大きく(10~15センチほど)出ているので、石と石の間に砂利がたまり、そこに小規模な瀬ができており、岸際にはわずかに植生が再生しています。これだけで生物はかなり多く生息できるようになります。しかしここも渓流から森林への移行帯はありません。
この地点はまだ工事中でしたが、工事後は1枚目の写真と同程度の流量になると思われます。ここでは落差工の前後はコンクリートでがっちりと固めていますが、その間の区間はおそらく底張りがしておらず、巨岩が詰め込まれています。これはしばらくたつとほぼ自然の川床が再生するのではないかと思います。護岸もポーラス護岸という隙間のある素材でできており、1枚目の写真の地点の護岸よりは生物にとって良いものであると思われます。ただしここも渓流から森林への移行帯はありません。したがってもちろん生物にとって「良い」とは口が裂けても言えませんが、治水対策と生物多様性保全の落としどころをがんばって探っている事例であるとは言えます。
ということでこれらの事例をみると、1枚目、2枚目の改修方法のずば抜けた「ひどさ」がよくわかると思います。これらの改修がなんのために行われているのかというと、治水対策です。しかしながら、河川法においては河川管理の目的として、「治水・利水・自然環境の保全」の3つが挙げられています。つまり税金を使った公共事業である以上、治水だけを優先した河川整備をしてはいけないのです。
また、国土交通省では「美しい山河を守る災害復旧基本方針( リンク)」という通達を出しています。ここではここでは「多自然川づくりの考え方に基づき災害復旧を行う」「河川における生物の生息・生育・繁殖環境、景観、水辺利用の保全が概ね図られる」とあり、さらに「この基本方針に基づき、すべての河川における災害復旧事業及び改良復旧事業に適用願います。」とあります。
我々の社会にとって治水対策は絶対に必要です。でも、同じ治水をするのでも工法や設計で自然環境のダメージをもっと抑えることができるのに、法律でも指針でもそういう方向になっているのに、河川行政にそれができていないのが問題だということです。人命と自然環境を天秤にかけてはいけないよ、というのが最近わかってきたことだと思います。自然環境の上にも人命は乗っています。つまりこれらは両端ではなく、人命のためにも自然環境を守らなければいけないということです。自然環境とそこから得られる生物多様性は我々の社会にとって重要な資源です。今の豊かさや安全性を維持したまま、自然環境を再生するにはどうしたら良いか、ということを我々はもっと深く深く考えていく必要があると思います。
ところで余談ですが、上記の事例はすべて筑後川水系です。筑後川水系の三面コンクリート護岸というと日本住血吸虫とミヤイリガイ対策を想起する人が少なくないことが最近わかったのですが、これらの生物は渓流には生息しません。またこれらの生物がかつてみられたのは筑後川水系でも平野部のごく一部で、かつそのためのコンクリート護岸化事業はすでに終了して久しいです。したがって上記の三面コンクリート護岸化は日本住血吸虫症対策とはまったく無関係の、治水のための事業だということを付記しておきます。