オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

書評

保科英人「近代華族動物学者列伝」勁草書房

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著者は昆虫分類学(土壌性のコウチュウ目)を専門としており、文化としての昆虫学(文化昆虫学)や科学史についても多くの著作がある多彩な研究者です。

内容は明治期~昭和初期に活躍した華族であり議員であった動物学者を中心に、8名についてその生き様を紹介しています。こうした近代の動物学者の生き様をまとめた読み物というのは類似文献もいくつかありますが、本書では特に「議会記録」を参考文献として丹念に拾ってその考察の根拠にしており、その労力を考えても実にすごい内容です。そのような文献に基づく根拠と考察の積み重ねは極めて科学的ですが、同時に、独自のセンスあふれた考察(あるいは感想)が散りばめられていて面白いです。個人的には四章から六章の三名(中川久知、鷹司信輔、高千穂信麿)が好きでした。

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議会記録をベースにしてるので、世の中の仕組みや物事がどうやって決まるのかなどについても実に勉強になります。当然本書で扱っている議会は貴族院を中心としたもので、戦前のことではありますが、その肝となる部分はやっぱり今と変わらないところがあり、職業柄個人的に色々と思い当たる節もあり、切なくもあります。生物多様性保全がなんで進まないんだー!と思っている方は、この本を読むとなんで進まないのかについても、あるいはどうしたら進むのかについても、少しだけ知見が得られるかもしれません。

ちょっと難しい部分もありますが、私はその世界に入り込んで一日で読んでしまいました。生き物好きの、非大学所属の研究者として、これまでとこれからについて色々と考えるところも多々ありました。