オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Miyake, T., Nakajima, J., Umemura, K., Onikura, N., Ueda, T., Smith, C., Kawamura, K.(2021)Genetic diversification of the Kanehira bitterling Acheilognathus rhombeus inferred from mitochondrial DNA, with comments on the phylogenetic relationship with its sister species Acheilognathus barbatulus. Journal of Fish Biology: online first (DOI: 10.1111/jfb.14876). (LINK

共著論文が出ました!みんな大好きタナゴ亜科・カネヒラの分子系統地理論文です。

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ちなみにカネヒラはこんな魚です。かっこいい!秋に産卵するタイプなので、九州でもこれからの季節に鮮やかな緑色&桃色に染まった雄を各地で見ることができます。

 

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mtDNAでおおむね8型を確認し地理分布ともほぼ整合的な結果となっていますが、九州はちょっと解釈が難しい部分も含む面白い分布様式であることもわかりました。また、日本列島産と朝鮮半島産は分類学的に同種ですが、mtDNAでは大きく異なる特徴をもっています。さらに興味深いのが中国大陸に分布する姉妹種A. barbatulusとの関係で、日本産カネヒラと朝鮮半島産カネヒラの間に来るという結果になりました。

今回の研究では東海地方から在来と思われるものはみつかりませんでした。従来の知見どおり本種の自然分布域は近畿地方山陽地方、九州北部のようです。興味深いのが熊本県の個体群。mtDNAでは九州他地域より本州に近いものの、独自の特徴をもっていました。また東海地方や新潟県の1地点のものはいずれも琵琶湖系統です。これと同様の遺伝子型は山陰地方や九州でも出ており、琵琶湖由来のカネヒラが人為的に各地で放流され定着していることも見てとれます。

 

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こちらは10数年前に中国・浙江省で調査した時に採れたAcheilognathus barbatulus。確かにカネヒラによく似ています。かつては中国大陸の淡水魚類は一方的に日本列島に分布を広げてきた、というような説明がなされることも多かったのですが、最近の研究ではそんな単純な話ではなく、地続きの時代にその間で種分化して同時に日本列島と大陸に分布を拡大したり、あるいは日本列島で種分化した後に大陸に移動したり、その通路も朝鮮半島あたりだったり、長江あたりだったりと、色々であるらしいことが判明しつつあります。

 

九州は本当に細かくしつこくサンプリングしてよかったなーということで、まずはこの時点では悔いがありません。細かく調べたおかげでいろいろなことがわかってうれしいです。今後はさらに様々な遺伝子領域や手法を組み合わせて、情報量を増やして詳細に調べていく必要がありそうです。そうすることでまた違った形での「カネヒラ」の実態に迫ることができるでしょう。

そして当たり前ですがカネヒラにもやはり地域性はあります。東アジアの地史の生き証人です。放流などせずに、地域のカネヒラを大事に守っていきましょう。