オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

日本産コガシラミズムシ科の総説です!

Hayashi, M., Iwata, T. Yoshitomi, H. (2023) Revision of the family Haliplidae (Insecta, Coleoptera) in Japan. Zookeys, 1168: 267-294.

zookeys.pensoft.net

日本産2属13種を認め、うち1種は新種、1種は日本初記録種となっています。本論文でこれまで長らく若干混乱していた日本のコガシラミズムシ相はほぼ完全に把握できたと言っても良いでしょう。図版は美しく、同定ポイントもよくわかります。眺めているだけで楽しいです。

で、肝心の新種はミゾナシコガシラミズムシHaliplus morii Hayashi, Iwata &Yoshitomi, 2023で、タイプ産地は山形県。今のところタイプ産地以外の採集例はないようです。クビボソコガシラミズムシに似ているものの、前胸背に1対の溝がないことで外部形態からも区別が可能なようです。

それから日本初記録種がウスチャコガシラミズムシ Haliplus angustifrons Régimbart, 1892で、南西諸島(徳之島、沖縄島、伊平屋島久米島石垣島西表島)からの記録となります。国外では東南アジアから南アジア(ベトナムラオスミャンマー、ネパール、スリランカパキスタン、インド)にかけて広く分布する種のようです。本種は業界で「コウトウコガシラモドキ」などと呼ばれてその存在は認知されていましたが、ついに学名が決まったということになります。本物のコウトウコガシラミズムシH. kotoshonisは近年の記録が少ないようで、危機的な状況かもしれません。なお、ネイチャーガイド日本の水生昆虫に掲載の2枚の写真はいずれも本物のコウトウコガシラミズムシです。コウトウコガシラミズムシでは頭部に黒色斑紋がありますが、ウスチャコガシラミズムシではありません。したがって外部形態でも区別可能です。

そしてこちらがそのウスチャコガシラミズムシ Haliplus angustifrons Régimbart, 1892であります。頭部の模様の他に、実際に薄茶色っぽく、この和名はイメージに近いです。

それから本論文の個人的にもう一つ重要なトピックとして、国外の文献上で日本からの謎の分布記録があったHaliplus diruptusとH. davidiについても結論が付いたのが喜ばしいです。すなわちH. diruptusはコウトウコガシラミズムシH. kotoshonisのシノニムとして処理されました。実はVondel (2017)においてH. davidiはH. diruptusのシノニムとして処理されていたそうなので、ようするにこれらはいずれもコウトウコガシラミズムシのことであったということになります。コウトウコガシラミズムシの分布を整理すると、南西諸島(宝島、沖縄島、石垣島西表島与那国島)、台湾、中国、ベトナムミャンマーということになります。

 

コガシラミズムシ類は外部形態の特徴からもかなり同定ができること、それぞれの種の環境へのこだわりが強いこと、また、クビボソコガシラミズムシ、カミヤコガシラミズムシ、クロホシコガシラミズムシ、コウトウコガシラミズムシ、キイロコガシラミズムシ、ヒメコガシラミズムシ、マダラコガシラミズムシなど希少種として扱われているものも少なくないことから、止水性湿地の環境指標としても適していると思われます。幼虫はシャジクモを食べるものやアオミドロを食べるものなども知られており、生態も興味深いです。さらに言えばどの種も個性的で、色形模様すべてが異彩を放っており魅力的です。都道府県ごとの分布情報はまとまったものがまだない状況と思われますが、今後関心が高まり、各地での知見が集まることが期待されます。