オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

地方環境研究所

行政の地方環境研究所というのは研究機関としてはあまり知られていない部類かと思います。大気汚染や水質汚濁などの公害が深刻で、人が病気になり死ぬ状況が生じていた頃に、そうした問題を科学的に解決することを目的として各都道府県や政令市が設置した調査研究機関です。その後、保健衛生系の機関(いわゆる衛生研究所)と統合し今に至っているところも少なくありません。

地方環境研究所、いわゆる地環研ですが、そうした経緯もあり基本的には大気・水質を対象とした部署が中心で、新しい環境問題であるところの「生物多様性」に関する調査研究に対応しているところはあまり多くありません。時々聞かれるので、各地の地環研で生物多様性に関する調査研究部署を有している機関とその内容を整理して一覧にしてみました。

 

地環研は行政組織なので元締めは国です。地環研の元締めは国立環境研究所(国環研)です。したがって地方環境研究所一覧は国環研様が整理してくれています↓

tenbou.nies.go.jp

このうち生物多様性に関連する調査研究に対応しているのは以下の機関と思われます(抜けがあったら教えて下さい!)。

 

〇 地方独立行政法人北海道立総合研究機構 産業技術環境研究本部 エネルギー・環境・地質研究所:自然環境部(生物多様性保全のための研究及び技術支援)(LINK

〇 岩手県環境保健研究センター:地球科学部(野生動植物の保全と管理のための調査・研究)(LINK

〇 山形県環境科学研究センター:環境企画部自然環境部門(自然環境に関する調査研究)(LINK

〇 福島県環境創造センター:野生生物共生センター(野生動物の調査研究)(LINK

〇 埼玉県環境科学国際センター:研究推進室自然環境担当(生物多様性・生態系の保全)(LINK 

〇 (公財)東京都環境公社 東京都環境科学研究所:環境資源・生物多様性研究科(生物多様性に関する調査研究)(LINK

〇 長野県環境保全研究所:生物多様性班(生物多様性保全・野生動物の保護管理に関する調査研究)(LINK

〇 横浜市環境科学研究所:調査研究担当係(生物多様性に関する調査研究)( LINK

〇 愛知県環境調査センター:企画情報部(自然環境に関する調査研究)(LINK

〇 名古屋市環境科学調査センター:環境科学室(生物多様性保全に関する調査研究)(LINK

〇 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター:生態系保全係(琵琶湖と滋賀県の環境に関する課題解決に向けた研究)(LINK

〇 地方独立行政法人 大阪府立環境農林水産総合研究所:自然環境グループ(大阪府域の生物多様性保全に関する調査研究)(LINK

〇 鳥取県衛生環境研究所:環境研究・教育担当(生態系・生物多様性保全、自然再生などに関する研究)(LINK

〇 島根県保健環境科学研究所:湖沼担当(宍道湖・中海の水質・生態系に関する調査研究)(LINK

〇 山口県環境保健センター:水質分析グループ(干潟調査)(LINK

〇 香川県環境保健研究センター:水質・自然環境課(多様な生物の生息空間と生態系の保全に関する調査研究)(LINK

〇 愛媛県立衛生環境研究所:生物多様性センター(生物多様性に関する調査・研究)(LINK

〇 福岡県保健環境研究所:環境生物課(自然保護に係る動植物の分布及び生態に関する調査研究)(LINK

〇 福岡市保健環境研究所:生物担当(博多湾や環境生物に関する調査研究)(LINK

〇 長崎県環境保健研究センター:環境分野(自然環境に関する調査研究)(LINK

〇 沖縄県衛生環境研究所:生物生態グループ(ハブ・海洋危険生物対策に関する調査研究)(LINK)※毒のある野生生物が中心で生物多様性とは少し違う。

 

地環研は行政内組織ですが、北海道や大阪府のように地方独立行政法人化しているところ、東京都のように公益財団法人化しているところもあります。また千葉県の地環研には生物多様性に関する部署はないようですが、環境部局の中に「生物多様性センター」があり、生物多様性に関する調査・研究を行っています(LINK)。千葉県には生物職という専門職があり千葉県立中央博物館もあるので、こういう形をとれるのだと思います。兵庫県の地環研にも同様に生物多様性に関する部署はなさそうですが、こちらは兵庫県立大学兵庫県人と自然の博物館と環境部局が密に連携がとれる体制のようなので、実質的に野生生物の研究職を置いているような形と思われます。似たような感じで県立博物館と連携している府県は他にもあるかもしれません。

基本的にはこうした研究所は「シンクタンク」としての機能が期待されるもので、生物多様性保全に関する施策の実施や法令の整備は本庁の自然環境部局が行い、そのための科学的裏付けや技術的支援を研究所が担うという形が一般的であると思います。これらの研究所の中には科学研究費補助金の申請可能機関になっているところもあり、実際にこうした研究費を得て独創的な研究を進めたり、あるいは大学等と共同研究を進めているところもあります。

ということで改めましてこれからの環境問題の柱の一つは生物多様性保全・自然共生社会・ネイチャーポジティブの実現になるわけですが(国の環境白書にあるとおり)、多くの地方環境研究所においてこの分野の調査研究を実施する形が整備されておりません。47都道府県+20政令市のうち、上記は21機関です。このうち野生生物専門の部署(部・課・係等)を持っているところは、北海道、岩手県山形県福島県、埼玉県、東京都、長野県、滋賀県大阪府愛媛県、福岡県、沖縄県の12都道府県に限られるでしょうか。加えて千葉県は別枠で同様の組織を持っていることになります。

もちろん水質や大気も引き続き大切です。しかし昨今生物多様性に関する問題が各地で頻出している我が国において(絶滅危惧種外来種、水産資源、クマ・・)、地方環境研究所の位置づけを再考して、ここで改めて生物多様性関係の調査研究部署を設置して、専門家としての研究職員を配置していくことを積極的に行っていくべきである、というのが私の考えです。

こうした研究職員を有していない府県においては、現状は、2~3年で異動する環境部局の行政職員が生物多様性に係る問題に対応しているわけです。しかしどう考えてもこの状況では限界があります。生物多様性の問題を解決する上で、組織内部に公務員としての生物多様性を専門とする研究職員を抱えていること、これは非常に重要です。公害という問題を解決する上で、水質や大気の研究職員を配置したことが大きな成果を上げたという「事実」が、何よりもそれを証明していると言えるでしょう。

それからもう一点、実は地方環境研究所という体裁をとっていても、本庁や保健所等の技術職員の異動先の一つとなっている機関が実はあります。我が社をはじめいくつかの機関は研究職採用で基本的には異動なく研究業務に従事する体制ですが、知る限りいくつかの地環研ではそうではありません。そういう機関では、せっかく専門的知識が得られ研究能力が向上してきたところで異動、という事態は残念ながらしばしばあります。やはり研究というのは専門性が高ければ高いほど「役に立つ」わけです。研究レベルが年々向上している現代において頻繁な異動込みでは研究職は成り立ちません。もちろん本庁や保健所等の技術職員の受け入れや人事交流は全体的な問題解決を図る上で重要なのですが、それは本丸であるところの研究所に専属の研究職員がいる前提での話であると思います。

したがって生物多様性に関する調査研究を実施する機関としての地環研を整備するとなった時に、その職員はきちんと専門の研究者として扱い育てる人事にすること、これが非常に重要です。またこうした体制にしていることを明確に公開することで、優秀な研究者人材を獲得できる可能性は高まります。私は諸事情により地環研のことを応援しています。ということで皆様におかれましても応援よろしくお願いします。

 

なお、栃木県保健環境センター、神奈川県環境科学センター、静岡県環境衛生科学研究所、高知県衛生環境研究所、大分県衛生環境研究センター、鹿児島県環境保健センターなどでは環境DNAを用いて水質担当部署で生物多様性保全を視野にいれた調査研究が進みつつあります。環境DNAは従来の水質分析と相性が良く、そういう意味で、地環研での生物多様性研究を広げる突破口になる可能性があります。