オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

田島文忠・柳田紀行(2010)利根川中流域における希少種トダセスジゲンゴロウの生息環境と生活史.ホシザキグリーン財団研究報告,13:215-226

この号に出ると聞いていたので楽しみにしていた報文。野外調査+飼育観察を組み合わせた上に、環境構造の変化も追っていて非常に充実した内容です。特に興味深かった点は、卵-蛹化までの日数データと生息環境を植生ステージで評価しているところ、でしょうか。いわゆる一時的水域のなかでもかなり明確に、他のゲンゴロウ類があまり利用しない環境構造を好んでいるように思いました。また、飼育下ではホソセスジやセスジに食べられる、というのも面白いです。保全対策のところで、河床低下による高水敷の冠水頻度の低下を指摘しており、これは非常に適切で重要なことです。一時的水域といっても遷移段階は連続的で様々なので、このような環境を好む種が河川敷で生き続けるためには、自然のサイクルで適当に冠水する湿地・氾濫原をある程度大規模に再生するしかありません。
今後は治水の効果を前面に押し出しながら、うまく設計された遊水地を適当な場所に造成することによって、遷移の途中が好きな水生昆虫類を場ごと保全していくのが望ましいのではないかと思います。そのためにはこういう生活史の記載的な研究が一番貢献するでしょう。氾濫原に依存したゲンゴロウ・ガムシ類の生活史についてはまとまった知見が少なく、色々な種類でもっと情報を蓄積していく必要があります。
しかしながらトダセスジゲンゴロウかっこいいな・・。まだ採ったことないんですよね。減少要因に採集圧が挙げられている状況では大きな声でいえませんが、実に、採りたい・・。